第15話 自由の理由
コーディーやレクターへの話も終わった俺は、その後離れに戻りアンナに無事話が終わったことを報告し、現在は離れの近くで運動をしている。
目的は勿論、体型改善であり、メニューとしては以前行ったものと変わらない。
家の者達への話が問題なく済んだおかげか気分も軽くなり、運動は順調に進んだ。
それでも流石にある程度で身体が限界を迎えてしまうため、休憩を挟みつつ行い、同じメニューを四セット終えた時点で既に日は高くなっていた。
時刻は正午に迫っており、アンナも昼食を用意してくれているだろう。
「はぁ……はぁ……ッ、よし」
続きは午後からにしようと離れの中に入り、まずは浴室で汗を流す。
その後は以前と同様、食堂でアンナと共に昼食を食べていた。
アンナとの会話を楽しみながらの食事の最中、ふと以前から疑問に思っていたことをアンナに尋ねてみた。
「そういえば前からもそうだけど、今も特にやらないといけないこともなく、自由に暮らしているけど、大丈夫なのかな?」
現在の俺はラースとしてのイメージ払拭のための活動ーー主に体型改善ーーを行っているが、言い換えればそれ以外は特に何もしていない。
貴族の子供が幼少期から通う、前世でいう小学校や中学校のようなものがこの世界に無いことは知っているが、流石にやらないといけないことが何も無いというのはどうにも不自然に感じてしまう。
ラースの記憶からもその辺りのことはよく分からないため、アンナに問うと、
「そうですね、この国の王侯貴族の子息令嬢は一般的に成人となる15歳から王立学院に通いますが、それまでは各家で教育をすると聞きました。なので、家にもよりますが15歳になるまでは特に絶対にしなければならないこと、というのは無いのではないでしょうか?」
先程、幼少期から通う学校は無いと言ったが、一般的に15歳から通うことになる王立学院というものが存在する。
その名の通り国が運営する学校であり、王族や大貴族の生まれならば必ず通うという名門校である。
そんな存在があるとはいえ、通うことになるのがあくまで15歳からであるならば、確かにそれまでは特にやらないといけないことは無いのかもしれない。
あと理由があるすれば、ラースには兄がいるためフェルディア伯爵家の家督は恐らく兄が継ぐ。
そうなると、ラースの教育に力を入れる必要もそこまで無いといった感じだろうか。
と、そう納得していると、
「………あとは、その、昔はラース様に勉強や鍛錬をするよう御当主様も言い含めておりましたが、……現在は諦めておられたのかと」
俺の質問への答えを律儀に返すためか、言い辛そうにしながらもアンナはそう言ってくれた。
その答えを聞き、現在俺が自由なことの主な理由も理解出来た。
単に勉強や鍛錬を嫌ったラースが真面目に取り組まなかったから、無くなっただけなのだと。
(これじゃ、自業自得なのにそれを忘れてるだけみたいだな)
傍から見たら、自分が不真面目だったから諦められて自由になっただけなのに、どうしてやることがないのかを真剣に聞いているように見える。
「……そうだったね、完全に俺の自業自得だ」
苦笑しながら、そう反省したそぶりを見せると、
「いえっ、15歳になるまではあまりやることがないというのも事実だと思いますので!」
そう言ってアンナがフォローしてくれる。
「ありがとう。……まあ今は自由にやりたいことが出来るということで良しとしようか」
やらなければいけないということが特に無いのならば、イメージ改善のための活動を問題なく続けることが出来る。
俺が言えた口ではないかも知れないが、そうやって俺はやや強引に話をまとめた。
その後はアンナとお茶を飲みながら談笑し、午前中の疲れを取ったところで再び運動を始めた。
疲労に関してはアンナから夜だけでなく昼にも治癒魔法を使うかと提案されたが、断らせて貰った。
確かに効率的に痩せるためには魔法で疲れを取ってしまった方が良いのだろうが、アンナや魔法に頼りきりになってきまうのは、どうにも良くないように思えたからだ。
それに流石に午前の運動の後、ある程度長い休憩は挟みたいため、その間に疲れは大分取れる。
こうして、出来る限り自分だけの力で努力した方がモチベーションも維持出来るし達成感も大きい。
そんなことを考えつつ、ひたすら同じメニューを繰り返すこと五回、まだ外は明るいが体感ではかなりの時間が経っているように感じる。
一セットに大分時間を掛けているし、実際にもかなり時間は経過しているだろう。
(そこまで凄い運動量って訳ではないけど、時間は大分消費するな…)
こんな身体では長時間運動し続けられはしないため、短時間・長時間問わず休憩を挟むことになる。
そうなれば必然的に時間も掛かってしまう。
ただ、
(まぁ、仕方ないか)
元々数日、数週間で痩せられるとは思っていないし、出来る限り早く痩せたいとはいえ、期限がある訳でもない。
こういうことは時間を掛けて、地道に積み重ねていくことが大切だろう。
(よし、やるか)
気合いを入れ直し、再びメニューを再開する。
とはいえ、既に時間が経っていたことに加え午前中と今までの疲労から、そこからは二セットを終えた時点で辺りは暗くなり、今日は切り上げた。
運動を終えた後はいつも通り浴室で身体を洗った後、食堂で夕食となる。
会話を楽しみながら食事は進み、現在は丁度食べ終えたところだ。
「ご馳走様。夕食も美味しかったよ、ありがとう」
美味しい食事を作ってくれたことに対して、アンナにお礼をすると、
「いえ、ラース様のお役に立てているのなら私も嬉しいです」
と、微笑みながらそう言ってくれた。
「後片付けは俺がやるよ。アンナはゆっくりしていて」
アンナの言葉を嬉しく思いながら、食事の片付けをしようと席を立とうとすると、
「い、いけませんっ。私がやります!」
案の定というべきか、アンナが自分でやると申し出てきた。
「……食事は完全にアンナに任せてしまっているし、このくらいは俺も手伝いたいんだよ。今後も片付けは俺がやろうと思っているし」
貴族ならばこんなことはしないのが普通なのかもしれないが、令人としてはそもそも出会ったばかりのアンナに押し付けることなど出来るはずがない。
いくらアンナに既に相当な親しみを覚えているとはいえ、その辺りの区別は必要だろう。
(というか、人に全部押し付けて自分だけのんびりしてるとか罪悪感が凄い……)
日本で暮らしていた記憶があるのに、貴族として当たり前の感性を持つことは難しい。
使用人がやってくれることが当然、と転生した俺が思うのは色々とダメな気がする。
しかし、アンナが簡単に折れてくれる訳もなく、
「ですが、主に雑用をお任せするのは……」
それはアンナとしても罪悪感があるのだろう。
「……なら、一緒にやろうか。それならお互いにフェアということで」
総合的に見て、やはりアンナの負担が大きいがこれ以上は難しいだろう。
「………それなら、分かりました」
アンナも了承してくれたため、一緒に片付けをしてその後は治癒魔法を掛けて貰った後、今日はもうお互いの部屋へ戻った。
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