有人島か無人島か

 コーヒーを味わってお店を後にした。

 居酒屋へ戻り、ホテルへ戻るかどうかを協議。結果、多数決でホテルへ戻ることは取り止めになった。

 あんな事件があったし、警察が今でもわんさかいるようなので仕方ない。

 しばらくは遠見先生の病院でお世話になることに。



病院こっちにいてくれるんだね!」

「ああ、天音。丁度いいからこれからのこととか話そう」

「うん。移住先とか決めないとね」



 そんな中、千年世とリコもこっちにやってきた。



「私も混ぜてください」

「あたしもあたしもー」



 千年世は相変わらず迷彩服を。リコは可愛らしいルームウェアだった。ちょっと露出が多くて目のやり場に困るな。


「千年世とリコは、どこか行きたい国はあるか?」


 話を振ってみるが、二人とも難しい顔をしていた。……そうだよな、普段海外旅行なんて行かないし、日本を離れたくない気持ちの方が強いはずだ。俺もぶっちゃけそうだし。ごはんは美味いからなぁ。


 案が出ないかと思ったが、リコが手を挙げた。


「あたしはバリ島とかタヒチ島とかいいと思うんだ!」

「へえ、リコは島系がいいのか」

「まあ今までも島ばかりだったし、馴染み深いと思うんだ。ほら、今も対馬だし」


 言われてみればそうだ。俺たちはほとんどを『島』で過ごしている。無人島やら、なにかと島に縁があるからな。まあ細かく言えば日本も島だが。


 リコの案はアリだな。

 今までの経験からして島は間違いない。

 逃げやすさはあるからな。


「なら、自分は無人島でよいかと思います」


 千年世からもようやく案が出た。なるほどね、原点回帰で無人島も悪くない。むしろ安全性はかなり高いと言えよう。

 位置情報も割れにくいし、ネットとは隔絶されているわけだからな。


「有人島と無人島もありだな。天音はなにかあるか?」


 今度は天音だ。けれど、なぜか天音は頬を赤くしていた。……な、なんでそんな反応を?


「…………そ、それは……」

「それは?」


 なぜか耳打ちされた。


「……早坂くんと一緒ならどこでもいいよ」


 恥ずかしそうにそう言った。


 マ、マジか!


 こっちまで恥ずかしくなってきた!

 妙な空気感に陥っていると千年世もリコも怪しんでいた。……ですよね。


「今、なにをコソコソと?」

「気になる気になる~!」


 二人ともずいっとこっちに顔を向け、薄情しなさいと詰め寄ってきた。ちょ、うおッ!?

 さすがに今のを素直に話すなんて恥ずかしすぎて俺が死んじゃう。無理無理!


 というわけで俺は誤魔化した。



「天音は日本がいってさ」


「「ええッ!?」」



 そうなるよな。

 移住の話なのに日本がいいだなんて。だけど今のは俺の誤魔化し。とっさに出た優しいウソなのである。許せ、千年世とリコ。


 そんな話をしていると背後から気配が。


 誰かに抱きつかれた。



「てっちゃ~ん♪ 一緒にお風呂はいろぉ~」



 それは桃枝だった。小さくて柔らかい体が密着していた。


「も、桃枝! 風呂って……」

「この近くに温泉があるんだよ~。一緒に行こ」


「それは構わんが…………あ」



 みんな行きたそうにこちらに視線を送っていた。でも、さすがに大人数で行くのは目立ちすぎる。こんな美少女たちと集団で動けば嫌でも目立ってしまうのだ。


 仕方ない、ここは男らしく俺が決めるか。



「じゃあ、桃枝と千年世、それとリコで」



 むろん、他のメンバーから不満が出たが、俺は“天音の面倒も見ないと”だからと説得した。すると残る北上さんたちは渋々ながら了承してくれた。……ほっ。



「気をつけてくださいね、哲くん」

「ああ、北上さん。こっちは頼んだぞ」



 俺と桃枝、千年世とリコは温泉へ向かった。



 ◆



 銃口と銃口が向き合っていた。

 今にも引き金を引きかける三秒前。恐ろしいほどの殺気がぶつかり合う重苦しい空気。……どうしてこうなった。


 俺たちはただ、温泉へ入るつもりだったのに……!


 それは温泉へ向かう道中だった。


 黒服の男たちが数十人と突然現れ、俺らは囲まれてしまったのだ。まさか銃を向けられるとは思わなかった。幸い、こっちにも千年世とリコが持つ隠し武器があったわけだが、人数的に不利すぎるな。



 どうするべきか考えていると、黒服たちの間から見知った顔が現れた。



「……早坂 哲。ようやく見つけたぞ」

「あんた……!」



 そうか、この男。もうここまで追ってきたんだな。

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