ハンドガン vs スナイパーライフル

 さっきのことで怒っているのなら、土下座してでも謝るしかない。

 その場に膝をつこうとすると北上さんは、俺の方へ突っ込んできた。――って、なんだァ!?


 おかげで俺は強制的に土下座するような体勢になった。そこまで怒っていたのか……。

 いや、違う。



「啓くん、危ない!!」

「――んなッ!?」



 俺の頭上ギリギリに何かが高速で通り過ぎていった。アレはまるで“弾丸”ではないか。そのまさかなのか!



「敵襲! 敵襲です!!」



 大きな声で叫ぶ北上さん。

 スマホを器用に操作してメンバー全員に対して緊急連絡を入れた。

 しかし、それどころではない。


 視線を海へ向けると、怪しい影がこちらを狙っていた。……あれは人間だ。まるで水中工作員フロッグマンのような姿をしていた。

 スキューバダイビングの格好ということは、わざわざ泳いできたのか。


 相手の様子をうかがっていると、向こうはスナイパーライフルを使って狙撃してきた。


「マジか!!」

「離れてください、啓くん。ここは危険です!」

「あ、ああ……」



 スナイパー相手にハンドガンで対応する北上さん。いくらなんでも無茶すぎる!

 このままでは撃たれるだけだ。

 俺は北上さんを引っ張り、身を引かせた。



「ちょ、なにを……!」

「遮蔽物のないこの場所では危険だ。せめて壁を使ってくれ」


 こんな時の為にコンクリートの壁をいくつか設置してあった。こういう銃撃戦の為に。


「そうですね。そうしましょう」



 北上さんは俺の言うことを理解してくれた。

 二人でコンクリートの壁へ向かい、改めて様子をうかがった。敵はゆっくりと海から上がり、港の陰に潜んだ。


 アイツはいったい何者だ……?


 顔が見えないからロシア人とも断定できない。



「北上さん、アレはいったい……」

「恐らくはロシア人ではないでしょうか。暗殺に切り替えてくるとは思いませんでしたが」

「それは言えてる。とりあえず、こちらも反撃しないと。今の武器は?」

「あたしのハンドガンだけです」


 コルト・ガバメントとS&W M36か。

 ないよりはマシだが、スナイパー相手にはキツすぎる。


「武器庫へ向かうしかないか」

「大丈夫です。現在、千年世が武器庫へ向かい、スナイパーライフルを調達しました」

「おぉ、さすが仕事が早いな!」

「ええ、彼女はもうプロ顔負けの軍人ですから」



 もうすぐ準備を終えるはず。それまでは耐えるしかない。

 俺はリボルバーのスターム・ルガーSP101をショルダーホルスターから抜き出し、構えた。

 予備の弾はそれほど持ち合わせていない。無駄には撃てないが、こちらに来させない為にも威嚇射撃をしないと――。


 狙い撃ちされないよう、俺は壁から少し身を出して発砲。



『――――ズドン! ズドン! ズドン!』



 当たらないとは思うが、三発を撃ち込んだ。

 これでしばらくは向こうもビビって出て来れないはず。



「少しの間は時間を稼げるはずだ」

「ありがとうございます、啓くん。おかげで千年世の準備が終わりそうです。……む」


 壁から港を覗く北上さんが今度はコルト・ガバメントで精密射撃。しかし、この距離では当然命中しない。遠すぎるか……。

 しかも反撃の度にスナイパーライフルから放たれる弾丸が壁を崩していった。なんちゅう威力だ。


「北上さん、向こうは対戦車ライフルでも使っているのか!?」

「この威力はありえるかもですね」

「マジかよ」

「冗談です。そんな物騒なモノを使っていたのなら、とっくに弾が壁を貫通していますよ」


 それもそうか。徹甲弾ならそれくらいの威力がある。だが、敵の武器は壁までは貫通していなかった。つまり、普通のスナイパーライフルということ。


 なら、勝てる見込みはある。



「こうなったら、手榴弾を使う!」

「了解です」



 俺はこの島に来てからグレネードを二個身につけていた。もちろん、こういう戦闘を想定してのこと。もっていて良かった。


 さっそくピンを外し、俺はグレネードをブン投げた――!

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