友達以上、恋人未満の関係

 俺の家は今回の事件のせいで、家族全員が引っ越してしまった。置いてけぼりを食らうとはな。残されたのは電話一本だけ。



『自分でなんとかしろ』



 なんて薄情な家族なんだ!

 絶望した!


 そんな、完全ぼっちになってしまった俺は今、天音の家にお邪魔していた。



「毎日、匿ってもらって悪いな」

「いいよ、いいよ。ウチ、パパが優しいからさ」



 天音は嬉しそうに俺の手を引く。

 どうやら、天音のパパさんは大手企業の社長さんらしい。アパートやマンションなど不動産をいくつも持っているようだ。すげぇな。


 その中の空きマンションを借りて、今は天音と北上と三人暮らしだ。


 ああ、そうだ。

 北上も何やら事情があって家族の元に戻れていないらしい。


 その理由は一切話してくれないけどな。


 だけどいい、この二人がいるのなら世界が滅亡しかけても生きていける気がする。



「天音さんが大金持ちのお嬢様で助かりました」



 お茶を啜る北上は冷静に言った。

 本州に戻ってからは、天音との仲も良好らしい。なにがあったんだかな。


「ていうか、北上さんは本当に家に戻れないの?」

「はい。どうやら、あたしに銃刀法違反の疑いがかけられているようなのですよ」

「え、そうなの? なんで?」


「無人島で使われた銃器はほとんど警察に回収されました。ですが、いくつか見つかっていないのです。そこで、サバゲー女子である、自分に疑いの目が向けられている状況でして」


 そうだ。危険なものは全て撤去されたと聞いた。だけど、見つかっていないものもあるのか。それで北上が疑われるだなんて……ヘンだ。


 あれは自己防衛の為でもあった。

 仕方がなかったんだ。


 使った銃は、ひっくり返った船に放り込んでおいた。あれで全部のはず。


 もしかして、あの後誰かが持ち出した……?



「なあ、北上さん。もしかして、今回の話って自分の疑いを晴らす為でもあったのか」

「それもありますよ、啓くん。恐らくですが、島にはまだ誰かいるんだと思います」


 誰かがいる……。

 その謎の人物は、船から銃を盗み出し……今も財宝を狙って歩き回っているというのか? まさか、生存者が?


 だとしたら、いつか財宝を見つけられてしまうかもしれない。そうなる前に、俺たちが入手しないと。



「そうか。ちょっと考えておくよ」

「お願いします。もちろん、無理にとは言いませんが」

「いや、北上さんには何度も命を救われたし、よく考えておくよ」

「助かります。では、天音さん。あたしはお風呂を借ります」



 背を向け、バスルームへ向かう北上。

 マンションに住めば、なんでも揃っている。


 電気は通っているし、ネットやWi-Fiも当然使える。

 エアコンや空気清浄機も。

 電子レンジやポッドも。


 なんて快適な生活を送れるんだ。文明の利器、様様だな。



「ねえねえ、早坂くん」

「ん、どうした、天音」

「あのさ……無理に無人島に戻らなくてよくない? このままマンションで暮らそうよ」

「そうだな。この生活も悪くない。天音には負担を掛けちゃうけど」

「そんなことはない。わたしは、早坂くんとずっと一緒が良い。いいよ、養ってあげる」

「マジか。それってヒモってことだぞ」


「わたしってバリバリ働きたいタイプだから大丈夫。子供ができたら、早坂くんが面倒を見てくれればいいし。もちろん、わたしもがんばるけど」



 ……こ、子供。

 そこまで見据えた発言をされて、俺は心臓が三回は破裂した。天音って、俺とそんな未来を考えてくれているのか。


 もしかして、俺はこの瞬間なら世界一幸せな男ではないだろうか。


 幸福ランキング十位以内には入ったはずだ。



「それも幸せの形だよな」

「でしょ? ねえ、早坂くん……キス、したくなっちゃった……」


 天音が甘えてくる。

 友達以上、恋人未満みたいな関係になってから一ヶ月。キスだけは求められていた。


 俺も天音に依存していた。いや、今もか。

 この関係を壊したくなくて――求められればキスをした。


「…………」



 三分、五分、十分……もう何分経ったか分からない。ずっと唇を重ね合わせて甘い一時を過ごした。



 * * *



 この天音のマンションには部屋が四つもあった。

 4LDKと金持ち御用達の賃貸マンションだ。家賃は余裕の六桁らしい。


 そんな良い場所にタダで住まわせてもらって尚且つ、自室まで貰った。


 俺はひとり、のんびりベッドに寝転がっていた。



『ピコ♪』



 スマホのラインメッセージが入った。

 誰だろうとスマホの画面を見ると、北上だった。



【北上:お宝を入手して、あたしと結婚しましょう】



 ちょ……唐突だな。

 しかも、谷間の写真まで添付してさ、俺を誘惑しているつもりか! そんなもので釣られるわけ――うむむぅ。


 悪くないな……。


 って、危ない危ない。

 エロ写真で、これからの運命を決めてしまうところだった。


 それはダメだ。

 俺は自分の意思で決めたい。



 ので、俺はこう返信した。



【早坂:谷間の写真は保存した。だが、まだ島へ行くかどうかは検討中だ】



 ……しばらくすると返信が返ってきた。



【北上:保存しましたね? それは婚姻届けに相当するものです。保存した瞬間、あたしと結婚したと見なされるわけです】



 そんな馬鹿な!!

 胸の谷間の写真を保存しただけで即結婚なんて聞いたことねぇよ!?


 市役所もビックリだよ、そんな婚姻届けは!!



【早坂:寝言は寝てから言え。じゃ、またあとで】



 それ以来、既読になるだけだった。

 まったく、北上は隙あらば俺を狙ってくるな。



 * * *



 今日はもう眠い――おやすみ。

 布団に入れば一瞬で眠気に襲われた。



 翌朝、目を覚ますと体が重かった。



 ん、おかしいな。右手も左手も動かせない。それどころか両足も。動かせるのは顔だけだた。



 な、なにが……?



 強引に起き上がろうとすると、なにか柔らかいものが触れた。なんだろうと見下ろすと、天音と北上が俺のベッドの中にいた。



「うわああッ!?」



 まさか、二人とも俺のベッドに侵入してるとかさ! 心臓が口から飛び出るところだったぞ。


 しかも薄着で肌の露出が多いし……。


 まったくもう、各々の部屋があるはずなんだがな。なんで俺のベッドに入って来ているんだか。


 でもいい。


 こんな生活がずっと続くのなら……俺は。


 そう思っていたけど、スマホに多くの連絡が届いていた。



【千年世:……これからどうしよう】

【桃瀬:報道陣に追いかけられて大変だよ~】

【八重樫:入院中で、お金が……】

【宝珠花:バイトできなくて困ったのです】

【彼岸花:お金なーい。パパ活するしかないかも】

【篠山:ひきこもり中~…暇】

【野茂:お宝を探しにいきませんか!?】

【琴吹:早坂くんの家って空いてない?】

【草埜:今度話があるんだけど……】



 なんか凄いことになってる!!

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