好き、好き、好き、好き、好き、好き

 今日も俺は、焚火に薪をくべていく。


 不眠不休で洞窟前の門番を続けていたのだ。


 けれど、今日は重圧的な疲労感もあって眠気が直ぐに襲ってきた。


「……っ」


 眠い。

 酷く眠い。

 気怠ささえあった。


 重すぎるまぶたを無理矢理こじ開けていく。

 けど、あっと言う間に限界が見えてきた。



 ――あぁ、もうダメだ。おしまいだぁ。



 気絶するかのように俺は闇へ誘われた。



「――――」



 誰か、俺を、見ている――ような。


 透き通るようなエメラルドグリーンの瞳。


 あれは……。

 あれは……北上?



 * * *



「やっべ……寝ちまった」



 目を覚ますと周囲は薄暗かった。

 夜明け前なのか。


 ――って、いかん。


 天音たちに危険が及んでいないといいけど……。



「おはようございます、早坂くん」

「あぁ、おはよう、北上さん…………ん!?」



 なぜか隣に北上がいた。

 焚火も消えていないし、まさか、ずっと俺の隣で火を絶やさずにいてくれたのか。


「眠ってしまったようだったので、あたしが代わりに見張りをしていたんです」

「悪い……俺が不甲斐ふがいないばかりに」


「いえいえ。人間は睡眠を取る生き物ですから、寝なければ死んでしまいますよ。

 ただ、無防備なことには間違いないので、身を守れるようにしなければなりませんね」


 それもそうだ。

 だから、人間ひとは家を作ったし、セキュリティも万全にするようになった。


 今こそ家のありがたみを感じる。


 電気やガス、水道が当たり前に使える幸せ。


 こんな島では、そんな便利なものなんてないからな。



「じゃあ、家でも作るか」

「そうですね。いつ、助けが来るか分かりませんし、それまでは暇を持て余すでしょう。生きる目的として家の建設も視野に入れて良いかと」


「北上さんって、ポジティブだね」

「いや~、照れますねぇ」


「本当に照れてるし。

 ちなみに、一応意見を聞きたいんだけどイカダを作る気はある?」


「無理ですね」


 やっぱり即答か。

 俺はなんとなく察しがついていた。


「無謀かな」

「はい、無謀すぎます。この島がどこにあるか分かりませんし、流されて気づいたら太平洋なんてことになったら、一巻の終わりでしょう。サメに食べられてしまいます」


「サメ以外にもスコールとか嵐で流されておしまいだな」


 そう、海は危険でいっぱいだ。

 イカダで脱出しようなんて甘い考えは捨てた方がいいな。


 下手に動くより、今は救助を待つ方がいいだろう。


「なので家を作る方がいいと思いますよ」

「そうするよ。それと、島の全体も把握しないとな。他にも遭難者がいるかもしれないし」


「ええ、他の生徒が気掛かりです。学年で百二十人はいるはずですから」

「あの貸し切りフェリーは、最大搭乗旅客数が四百名クラスの船だからな。A~D組がいたんだ。百人近くが行方不明……よくよく考えなくとも、とんでもない事件だよな」


「なのでテレビやネットは大騒ぎのはず。なのにヘリコプターや船ひとつ通らない……これは、ちょっと異常事態ですよ」


 言われてみれば飛行機すら見ていない。

 たまたまかもしれないけど。


 今の時代なら、ドローンくらい飛んでいそうなものだけど。


 この島がよほど見つかりにくい場所にあるってことかな。


「今は無難に生活していくしかないわけか」

「そうですね、この島で楽しいことを見つけていきましょう」


「楽しいことかあ。まあ、でも女の子が多くて俺は得してるけど」


「あたしも初めて男の子の友達が出来ました」

「そうなのか。でもサバゲーオタクなんだろ? 男とやるものだろ」

「いえ、女友達とです。女子のサバゲー愛好会があるんですよ」


 そんなものがあったとは……俺の知らない世界だ。

 でも、ちょっと面白そうだなとも思った。


「前々から聞いてみたかったけど、本当にサバゲーだけ? 北上さんって、なにか特殊な訓練とか受けてない? あのイノシシの戦闘といい、只者じゃないよね」


 そう、あの動きは人類を超えていた。


「実は、イギリスの特殊空挺部隊SASに……」

「やっぱりそうなんだ!」


 俺は事実を聞かされて興奮した。

 北上さんは、女子高生に扮した特別な女の子なんだ。

 そんな人に出会えるなんて――。



「そんなわけないでしょう。冗談です」



 冗談かよッ!

 一瞬信じたぞ、俺。



「なんだ、スーパー女子高生を期待していたのに」

「否定も肯定もしませんけどね」


 うわ、なにその曖昧な返答。

 なんか気になるじゃん。

 やっぱり、なにか裏があったり……いや、邪推かな。


「そっか。その時がきたら、いつか真実を教えてくれ」

「分かりました。その時は覚悟してくださいね」


 北上は、意地悪そうに微笑む。

 どっちなんだかなあ。


「さて、俺は水を確保できるようにしようと思う」

「どうやってやるんです?」


「昨日の雨で思いついたんだけど、貯水池を作るのさ。生活用水と風呂用もね。あとトイレか」


「洞窟の周辺は森で囲まれていますが、柔らかい土なので掘るのは簡単でしょう。いっそ、井戸でも作れればいいのですが」


「井戸を掘るのは大変すぎるよ。道具もないしね。だから、貯水池を作るよ」

「了解しました。手伝えることがあれば、なんでもおっしゃってください」


「助かるよ」



 立ち上がって天音たちの様子を見に行こうとした――のだが。

 北上が止めてきた。



「早坂くん、みんなは寝ています」

「そうか……」


「天音さんが気になりますか」


「……ま、まあ」

「あたしでは……ダメですか」


 俺の目の前で制服を脱ぎだす北上。

 大胆に肩を出して際どい格好になっていた。


 ……こ、こんなところで。


 下着とか谷間が見えてるし……もう直視できない。でも、気持ちは凄く嬉しかった。



「北上さんは魅力的だよ」

「それなら、いいではないですか」



 俺の手を握り、そのまま胸へ――うわッッ!



「ど、ど、ど、どうしたのさ……!」

「……早坂くんが好きになってしまったのです……」



 予想外すぎる告白に俺は、頭が真っ白になった。


 うそ……うそぉ!?


 北上が俺を好き?



「なんで……?」


「だって一番頼りになりますから。沢山の知識を持ち、生存の確率も高い。強い男を求めるのは、女子として自然ですからね。

 そもそも、男子は早坂くんだけ……もうすでに取り合いは始まっているんですよ。……フフフ。

 ……あぁ、早坂くん……好き、好き、好き、好き、好き、好き」



 なぜかナイフを向けられた。


 うわッ!

 うわ、うあああああああああ!!

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