第21話 虚しさへの入り口

「仕方ない。階段を使うか。」


「ひじょうかいだんはどうだろう?」


妻殴りはたまに良い提案をする。


「それだ、非常階段だ。

給食室へ行くなら、外から食材搬入のトラックがB1へ行く為のスロープがある。

非常階段からならスロープも近いし、そのルートを使えばわざわざ校舎内を通らずに給食室へ行けるぞ。」


「いいね。非常階段を使おうよ。

けど、扉に鍵掛かってるかもしれないから、ちょっと行って確認してくる。」


高梨はそう言うと、屋上の端にある非常階段に向かって小走りで向かう。

非常階段へと繋がる扉に着き、確認するかのような動作をした後、高梨はこちらに振り返り頭上で大きくバツを作った。


「鍵が掛かってるか…」


高梨は駆け足で戻る。


「駄目だった、やっぱり鍵掛けられてるよ。

これで無理矢理開ける?」


高梨は自動小銃を構えた。


「それはやめておこう。

ここでまた発砲音をさせたら、奴らが来るかもしれない。」


「そうだね、やっぱり階段を使うしかないね。」


階段はエレベーターがある塔屋の中にある。


高梨は塔屋の階段へと続く扉を開ける。


「僕が先に行って警戒するから、パリスと妻殴りは詩郎の車椅子を支えながら降りてきて。」


高梨は自動小銃を構えて慎重に階段を下りて行く。

屋上の一つ下のフロアである三階へ着くと壁に身を隠し周囲を見回す。


高梨が手招きする。

安全の確認が取れたのだろう。

パリスが俺を載せた車椅子を反転させ後ろ向きにすると、パリスと妻殴りが車椅子の背もたれを支えながら後ろ向きのままで階段をゆっくり降りて行く。


なんとか三階に着き、高梨と合流する。


「みんな、さんかいのだんしトイレちかくのダストシュートでいっきにしたにおりるのはどうだろう?」


妻殴りが小声で言った。

良い提案だ。

妻殴りのこの目の付け所は只者じゃない。

こいつ、やはり人相通り何かあるのか?

校内で秘密裏に何かやってるんじゃないのか?

まぁ、それは置いておくとして、


「ダストシュートがあったか。

ダストシュートの出口の方が、非常階段よりも給食室の搬入口へ向かうスロープに近い。

これぞ渡りに船ってやつだ。」


そうと決まれば話は早い。高梨は壁の死角に身を隠し、廊下に敵がいないか確認する。


「僕が先にダストシュートで下りて、落ちても衝撃が和らぐようにゴミでクッションを作っておくよ。

それが出来たらスマホで知らせるから、一番最初に詩郎の車椅子を下ろして、次に詩郎が来て。

その後は…、二人に任せるよ。」


高梨は小声で言うと、肩に掛けていた自動小銃を背中へ回す。


「わかった、高梨頼むぞ。」


高梨は微笑むと、死角から飛び出しトイレ横のダストシュートへ向かって一目散に突っ走る。

ダストシュートの蓋を開けると、一気にその身を滑り込ませた。

高梨は簡単なことのように言ってくれたが、ここは三階だ…

それなりの高さから飛び降りるのか…


数分もしないうちに俺のスマホへ高梨から着信が来た。


「準備出来たよ!合図するから通話は切らず、そのままで!」


「わかった!

行くぞ、妻殴り!パリス!」


妻殴りが先を走り、その後を俺が乗る車椅子をパリスが押して走る。


妻殴りがダストシュートの蓋を開ける。

俺はなんとか立ち上がると、パリスが車椅子を畳む。


「車椅子を落とすぞ。」


「いつでもどうぞ!」


高梨のその声の後、妻殴りとパリスに目配せをすると、二人は車椅子を持ち上げダストシュートへと入れた。


下で車椅子が落ちた音がした後、引きずり出す音がした。


「次は詩郎。頑張って!」


「あぁ、行くぞ。」


俺は妻殴りとパリスに両肩を支えられながら、足からダストシュート内へと入る。


「よし、離してくれ。」


二人は肩から離れた。


一気に落ちる!

と思ったのだが、生憎にも俺の腹囲はダストシュートの穴の直径と同じ…、でもなく俺の腹囲の方が若干大きかったようだ。

落ちていかない…

俺は身体をねじ込むようにして腕を使い穴を下りて行く。


やっとの思いで下に着いた。


「俺にクッションは不要なようだったな…」


「それでもいいじゃない。詩郎が一気に落ちて怪我しなくてよかったよ」


と高梨は俺を車椅子へ移乗させながら気休めめいたことを言うのだが虚しい。

俺のシャツの腹の部分は裂け、身体は真っ黒に汚れ虚しさに拍車をかける。


次にパリスが下り、ゴミ溜めから高梨の手を借りて立ち上がると最後は妻殴りだ。


その時、三発の銃声が鳴り響く。

咄嗟に身体が反応し身を屈める。

しかし銃声は上から、ダストシュートから聞こえてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る