美凪side ③ 前編 その①

 美凪side ③ 前編 その①





 日曜日の夜。隣人さんの作った『本気』の夕ご飯を食べた私は、とても上機嫌でした。


 漫画喫茶ではとても嫌な気持ちになってしまい、彼に対して憤りを感じていました。

 ですが、隣人さんからの本気の謝罪と私に対する気持ちを受け取ったこともあり、許してあげることにしました。


 もう!!こんなにも可愛い女の子が貴方に好きだってアピールをしてるのに、他の女性に目を向けるなんてありえないんですからね!!


 そして、隣人さんが私に言ってくれた言葉には驚きました。


『俺はお前以外の女と恋人になろうとか、そういう気持ちを持つことは今後一切無いと言っておく』


 これは事実上の『愛の告白』です。


 こんな言葉が彼から聞けるとは思ってませんでしたから。


 そして、隣人さんは私のために何やら準備をしているようでした。


 あはは。そうですか。

 シチュエーションとかそう言うのにしっかりと拘った上で関係性を進めたい。

 きっと彼はそう思ってるんでしょうね。


 こんな喧嘩した後の自宅の居間。なんてシチュエーションでは無く、もっとしっかりとした所で。


 もぅ。仕方ないですね。

 この美凪優花ちゃんを待たせるなんて隣人さんも良い身分です!!

 ですが、私は待ってあげることにしました。


 それに、彼がどんなことをしてくれるのか。私はとても楽しみですからね!!




 そんなことを思いながら、私は歯を磨いて彼の待つ寝室へと向かいました。



 コンコンと扉を叩いた後に、私は彼の寝室の扉を開きます。


「失礼します」

「……あぁ。いいぞ」


 パジャマに着替えたあと、歯を磨いてから部屋に行きます。

 そう伝えていました。

 彼もパジャマ姿で私を出迎えてくれました。


「それじゃあ明日も早いからな。早めに寝ようか」


 布団の中に身を移しながら、隣人さんはそう言いました。


「そうですね。本当は少しだけ貴方とお話をしたかったですけど、それは我慢しますね」


 私がそう言って少しだけ微笑みを向けると、隣人さんは照れくさそうに顔を赤くしました。


 ふふーん?やはり夜の隣人さんは少しだけ防御が甘い気がします。


 そんな彼を少しだけ可愛く思いながら、私はベッドの方へ向かいます。


「失礼します」

「あ、あぁ……」


 先に布団に入っていた隣人さんの隣に、私は身体を移します。


 まだ温まっていない、少しだけひんやりと布団の中。

 ですが、彼の隣はとても温かかったです。


「ギュッてしてもいいですか?」

「……ダメって言ってもするんだろ?」


 上目遣いで彼にそう問いかけると、少しだけ諦めたような声でそんな言葉が返ってきました。


「はい。隣人さんに拒否権はありません」

「なら聞くなよ…… 良いぞ。好きにしてくれ」

「わーい」


 私は隣人さんの身体をギュッと抱きしめました。


 好きな人の身体はとても逞しくて、温かくて、幸せな気持ちになれます。


 これは直ぐに眠れてしまいますね。


「じゃあ、電気を落とすぞ」

「はい」


 隣人さんはそう言うと、手元のスイッチを操作して部屋の明かりをオレンジ色にしました。


 オレンジ色の明かりに照らされた彼の表情は、私をたくさん意識してくれているのでしょうね。真っ赤になっていました。

 ふふーん。良いのですよ?我慢出来なくなっても。


 なんてことを思いながら、私は彼の腕の中で目を閉じます。


「おやすみなさい、隣人さん」

「あぁ、おやすみ、美凪」



 優しい声。軽く彼は私の頭を撫でてくれました。


 ふふふ。大好きです……凛太郎さん……



 私はそう思いながら、夢の中へと旅立って行きました。






 ~日曜日・美凪視点~




 ピピピ……ピピピ……ピピピ……


 日曜日の早朝。私は目覚ましのアラームの音で目を覚ましました。


 間借りしている彼の部屋。今日は添い寝をしていなかったので一人での起床です。


「……やっぱり。少しだけ寂しいです」


 三日間。彼と一緒に寝ていました。

 年頃の男女が同じベッドで寝るのは問題かと思いますが、あの温もりを知ってしまったら、もう一人で寝るのは嫌になってしまいます。


「全くもう……隣人さんは罪な人ですね……」


 そして、まだ少しだけ眠気が残る中。私はベッドから身体を出して軽く伸びをします。


「んー」


 4月の朝は少し肌寒いです。ですが、この寒さは私の目を覚ましてくれます。


 そして、私は寝室を出て行き洗面所へと足を運びました。




「おはようございます、隣人さん」


 洗面所へと向かうと、既に起きていた隣人さんが顔を洗っていました。

 私は彼に朝の挨拶をしました。


「おはよう、美凪」


 私の声に振り向いた隣人さんは、挨拶を返してくれました。

 そして、その視線が私の胸の辺りに行ったあと、頬を赤くして視線を逸らしました。


 ふふーん。もう、可愛いですね。

 そういう視線はわかるんですよ?


 私はそんな彼に愛おしさを感じ、その身体を抱きしめていました。


「ぎゅー……」

「は?」


 やっぱり。幸せです。この温もりを知ってしまったらもう戻れません。彼の隣は私のものです。誰にも渡しません。


「んー……幸せです……」


 私は彼の身体に頬ずりをします。

 これはマーキングです。


「いやいやいやいやいやいやいやいや………………おかしいだろ!!!???」


 ふふーん。何を言ってるんですか隣人さん。

 おかしい事なんかひとつもありませんよ?

 朝からそんなに大きな声を出して、ダメですよ。


 私はそんな彼の身体を寄り強く抱きしめました。

 はぁ……幸せです……


 何だか少しだけ眠くなってきました……


「お、おい美凪!!俺を解放しろよ!!」


 何を言ってるんですか隣人さん。

 こんなに可愛い女の子が貴方に抱きついてるんですよ。

 幸せだと思ってください……


「んー……何を言ってるんですか、隣人さん。これ程の美少女の抱擁ですよ……甘んじて受け入れてください……」


 私は甘美な誘惑に誘われるまま、二度目の眠りを受け入れました。





 そして、しばらくすると私の意識が少しづつ現実へと戻ってきました。


「…………んぅ……あれ、ここは……洗面所」

「……そうだな。ここは洗面所だぞ」


 優しげな隣人さんの声が耳に届きました。

 私はその声の方へ顔を向けます。


 そこには頬を赤く染めながら、私の頭を優しく撫でてくれている彼の姿がありました。


「お、おはよう……ございます……」


 私は恥ずかしさを噛み殺しながら、彼に二度目の朝の挨拶をします。


「おぅ……目を覚ましたか……」


 少しだけ困ったような表情で彼はそう言って、私の身体をそっと離しました。

 あぁ……少しだけ……寂しいです。


 ですが、我慢ですね……


 私はそんな彼に、言い訳をしました。


「ね、寝ぼけてました……」


 私のその言葉に、隣人さんは笑いながら答えました。


「だろうな。まぁ超絶美少女の美凪優花ちゃんに抱きしめられて光栄だと思ったよ」


「……隣人さんはいじわるです」


 私は彼から少しだけ視線を外して、そう言いました。




 そんなやり取りを経て始まった日曜日の朝です。


 私は洗面所で顔を洗って居間へと向かいました。


「さ、先程は失礼致しました……」

「まぁ……気にするなよ。俺も役得を感じてたから」


 椅子に座って牛乳を飲みながらニュースを見ていた隣人さんはそう言葉を返してくれました。


 そして、続けて言われた言葉に私は驚きました。



「なぁ、美凪。今日の朝ごはんはお前が全部作ってみるか?」

「……え?」


「卵も割れるようになった。火も使えるようになった。サラダも作れるな。冷蔵庫にあるものを使えば朝ごはんを作ることは可能だぞ?」

「……わ、私が作ってもいいんですか!?」


 た、確かに彼から教わったことを活かせば、朝ごはんを作ることは可能です。ですがここまで任せてくれるんですか!?


「当たり前だろ?『優花ちゃんスペシャル朝ごはん』を俺に食べさせてくれないか?」


『優花ちゃんスペシャル朝ごはん』


 その言葉に私はとても嬉しい気持ちが込み上げてきました!!



「ふふーん!!良いでしょう!!これまで隣人さんから家事を習ってきた私の集大成!!優花ちゃんスペシャル朝ごはんを完璧に作り上げて差し上げますよ!!」


「卵焼きはスクランブルエッグにしても、目玉焼きにしても構わないからな」


 いえ、貴方の後ろ姿は見てきました。

 スクランブルエッグにチャレンジしますよ!!


「スクランブルエッグにチャレンジしてみます!!あなたの作る姿を見てきましたからね、作り方とポイントはわかってます!!」


 そして、ここまで任せてくれる隣人さんに、絶対に注意しなければならないポイントを告げに向かいます。


「絶対に怪我をしない。それを心において、料理をしてきます。隣人さん。楽しみに待っててくださいね!!」

「あぁ。その心持ちなら安心して任せられる。楽しみに待ってるぞ」


 その言葉を聞いた隣人さんは、とても嬉しそうに首を縦に振ってくれました。


 こうして、『優花ちゃんスペシャル朝ごはん』作りがスタートしました!!

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