第二十話 ~猫カフェでとんでもない料理に出会った件~

 第二十話





「じゃ、じゃあ……猫カフェに行こうか、美凪」

「そ、そうですね……隣人さん……」


 有名なニュース番組の取材から解放され、俺と美凪は手を繋いで猫カフェへと向かった。



「……なぁ、美凪。俺があの場で言った言葉だけどな」


 しばらくの間。少しだけ気まずい沈黙があった。


 そんな空気を変えたいと思い、俺はそう言って美凪に声をかける。

 彼女は俺の声に振り向いてこちらを見上げる。


「別に嘘とか思ってもいない事とかじゃないからな」

「……そ、そうですか」


 その言葉に顔を赤くする美凪。

 そして、彼女は俺に言葉を返す。


「私も、あの場で言ったことは嘘とか思ってもいない事とかではありません。こうして隣人さんと手を繋いで歩いている時間も、とても幸せなものですから」

「そうか……」


 そんな会話をしていると、猫カフェが見えて来た。


「着きましたね。色々喋ったのでちょっとお腹が減ってます。ご飯物とか食べたい気分ですね!!」

「あはは。そうだな。オムライスとかドリアとかあったらいいな」


 なんて会話をしながら中に入る。


 すると、店員さんが一名やって来た。


「すみません。予約とかしてないんですが、利用しても大丈夫ですか?」


 俺は店員さんにそう問いかける。

 美凪のアレルギーのこととかもあったので、予約はしていなかった。

 人気店ではあるからな、少しだけ心配している部分ではあった。


『大丈夫ですよ。すぐにご案内出来ます』

「そうですか、ありがとうございます」


 俺は店員さんに頭を下げて、美凪と一緒に後に着いて行った。


「良かったですね!!これで猫ちゃんと戯れられます」

「そうだな。でもまずは昼ごはんを食べながら猫を眺めていこうか」


 案内された席に座ったあと、俺と美凪はメニュー票を確認する。

 少しすると店員さんが水を持ってきてくれた。


 その水を飲みがら、俺はメニュー表を眺める。


 多少割高に感じたが、メニューは豊富だと感じた。

 まぁ価格的にはこんなもんだよな。


「私はミートスパゲティとミートドリアにします!!飲み物はオレンジジュースですね」

「俺はカルボナーラと……え?チャーハン??」


 メニュー票には洋風に紛れて一品だけチャーハンがあった。

 ラーメンや餃子とかは無い。チャーハンだけが存在していた。


 オムライスでも食おうかなと思ってたけど、ちょっと気になるな。


「良し。俺はカルボナーラとこのチャーハンを頼もう。飲み物は烏龍茶だな」

「へぇ。こんな場所でチャーハンなんて珍しいですね」


 俺と同じ感想に美凪も至ったようだった。


「もしかしたらめちゃくちゃ美味しいかもしれないな」


 俺はそう言って、呼び鈴で店員さんを呼んだ。


 リーンという音が鳴り、店員さんがやって来た。


『ご注文をどうぞ』


「えーと。彼女がミートスパゲティとミートドリアでお願いします。俺がカルボナーラとチャーハンです。飲み物は彼女がオレンジジュースで俺が烏龍茶です」


 俺がそう言うと、店員さんがメモを取りながら繰り返した。


『ご注文を確認します。ミートスパゲティが一つ。ミートドリアが一つ。カルボナーラが一つ。チャーハンが一つ。オレンジジュースが一つ。烏龍茶が一つ。飲み物はいつお持ちしますか?』

「美凪はどうしたい?」

「食後でいいですよ」


「じゃあ飲み物は食後でお願いします」

『かしこまりました。それではお待ちくださいませ』


 店員さんはそう言うと、俺たちのテーブルから去って行った。


「正直な話。チャーハンは私もすごく気になってたんです」

「あはは。だよな。あれだけなんだか異彩を放ってたからな」


「それにしても見てくださいよ、隣人さん。めちゃくちゃ可愛い猫ちゃんがこっちを見てますよ」


 美凪はそう言うと、透明なガラスに隔たれた離れたところにいる猫たちを指さす。


「飯を食い終わったらあっちに入れる感じだからな。それまでは見て楽しむってやつだ」

「今からワクワクが止まりませんね!!」


 そんな話をしていると、頼んでいた料理がやってきた。

 何となく予想していたけど、出てきた料理は『冷凍食品』を少しアレンジしたものだった。


「ははは。何となく予想はしてましたけど、やっぱり冷凍食品ですね」


 と美凪も苦笑いをしていた。


「まぁ、前も言ったけど、冷凍食品だって美味しいからな。これを超える味を出すのはなかなか手間だからな」


 なんて言っていたが『チャーハン』だけが来ていなかった。


「おや、そう言えばチャーハンがまだでしたね」

「そうだな。チャーハンの冷凍食品もなかなか美味しいけどな」


 なんて話をしていると、店員さんがチャーハンを持ってやって来た。


『お待たせしてしました。チャーハンです』

「マジかよ……」

「こ、これはすごく美味しそうです……」


 明らかに冷凍食品ではなく、白米から本気で作られたチャーハンがやって来た。


 具材は卵とネギとベーコンの三種類のみ。


 だが、料理が光を放っているのが見える。


 確信を持って言える。

 これは絶対に美味しい。


 俺たちは「いただきます」と声を揃えた後に、昼ごはんを食べ始める。


「あはは。やはり良くも悪くも冷凍食品という感じがしますね……」


 ミートスパゲティを食べた美凪はそう言って笑っていた。


 だが、俺は件のチャーハンを一口食べて戦慄を覚えていた。


「……やべぇ、美味い」


 口の中に入れた瞬間に、米と具材がパラパラとほどける。

 しっかりとした火力が無ければこれ程までに米をパラパラにする事は出来ない。

 少なくとも、うちのIHではこれを作るのは無理だ……


「ひ、一口くれませんか……?」


 物欲しそうな目をしてる美凪。

 そうだよな、食べてみたいよな。


「わかった。先に言っておく。俺にはこれは作れない」

「そ、それ程の味ですか……」


 俺はレンゲでチャーハンを掬い、美凪に差し出す。

「あーん」の形になっているが、特に気にはしていなかった。


 そして、チャーハンを一口食べた美凪は目を見開いた。


「ヤバいですね、これは!!とんでもない味ですよ!!」

「使ってる具材が高価なものじゃないから、値段も500円だしな。こんな猫カフェで出てきていいような料理じゃないぞ」


「も、もう一口貰ってもいいですか?」

「ははは。お前がそこまで言うのは少し悔しいな。さっきは無理って言ったけど、このレベルの料理に挑戦してみるのも悪くない」


 俺はそう言って、美凪の口にチャーハンを運んだ。


 美凪はそれを咀嚼して飲み込んだ後、俺に向かってふわりと微笑んだ。


「確かにこのチャーハンはとても美味しいと思います。ですが私にとっての『一番』は隣人さんの料理ですよ」

「そ、そうか……」


「貴方の料理は、私を幸せにしてくれますからね。お腹を満たすだけじゃなくて、心も満たしてくれます。あはは……なんだか恥ずかしいことを言ってますね」


 美凪はそう言うと、ドリアをスプーンで掬って食べていた。



「……はぁ。あまり可愛いことを言うなよな」


『あの計画』よりも早くに、彼女に手を出してしまいたくなってしまう。

 でも、今は我慢しないといけない。

 タイミングが命なのはわかってるから。


 俺は絶対に赤くなってるであろう顔を隠しながら、クオリティの高過ぎるチャーハンに舌鼓を打った。

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