美凪side ② 後編 その②
美凪side ② 後編 その②
「……い、居ますね」
曇りガラスの向こう側に、彼の姿が見えました。
は、肌色です……
全裸で居るのがわかりました。
お、お風呂に入っているんですから当然ですよね……
私は勇気を振り絞って、曇りガラスをコンコンと叩きました。
「……え?」
お風呂場から、彼の声が聞こえてきました。
すると、こちらに振り向いてきて、すごく慌てたように私に声を掛けてくれました。
「どうした!!もしかして、不審者が現れたとかそう言うのか!!??」
あぅ……も、申し訳ないです……
そんな心配をさせてしまうとは、考えていなかったです……
私はかなりの申し訳なさを感じながら、彼に自分の考えを話しました。
「そ、その……お背中を流そうかと……」
「は、はああああああああぁぁぁ!!!???」
かなり大きな彼の声。相当びっくりしてるのがわかりました。
あはは……そうですよね。突然過ぎますよね……
「な、何でそんな事いきなり言ってくるんだよ!!」
「お、お世話になってるので……」
私は彼に理由を話しました。
するとやはり、当然の返事が来ました。
「そ、そんなことは求めてないんだけど……」
「だ、ダメですか……?」
ですが、私は引きたくありません……
貴方からはっきりと『ダメだ』と言われるまでは諦めません……っ!!
少しだけ思案したあと、彼は絞り出すように答えてくれました。
「…………わかった。良いよ。許可するよ」
「あ、ありがとうございます!!」
私はあまりの嬉しさに、思わず曇りガラスの扉をガラリと開けてしまいました。
「…………は?」
「…………あ」
驚いた表情の彼。
彼は毎日筋トレをしているので、帰宅部とは思えないとても引き締まった身体をしています。
そして、私は思わず視線を下に向けてしまいました。
『…………な、なるほどぉ』
小さい頃にお父さんとお風呂に入ったことがあります。
あのCMのような事をした記憶もありますね。
その時に目にしたものよりも、彼の方が……
い、いけません。これ以上は天国のお父さんに対して失礼です……
「…………何か言うことはあるか?」
彼の声で、私は視線を元に戻しました。
仁王立ちする彼の姿に私は少しだけ安堵を覚えます。
お、怒ってはいないように見えます……
なので私は感想をそのまま伝えました。
「ご、ご立派ですね」
その言葉に、彼はすごく微妙な表情を浮かべました。
「し、失礼しました……」
私はそう言って、曇りガラスを閉めました。
か、顔が熱いです……
あ、あんな大きいのが私の中に入るのは、ちょっと想像するだけで大変そうです……
なんてことを思っていると、浴室から彼の声が聞こえてきました。
「…………まぁ、一緒に暮らしていけばこういう事故もあるだろうから特に俺から何かを言うことは無いが、気を付けてくれ」
ため息混じりでそう言われた言葉。
本当に……申し訳ございません……
「は、はい……」
その、貴方が望むのでしたら、私の身体をお見せしても構わないですよ……
そんなことを考えていました。
「……はぁ。開けていいぞ」
「は、はい!!」
再び曇りガラスの扉を開けた私の目の前に居たのは、腰にタオルを巻いて、お風呂用の椅子に座った隣人さんでした。
私は濡れたタイルで転ばないように気をつけながら、浴室の中を進みます。
そして、彼に先程のことを謝罪しました。
「さ、先程は失礼しました……」
「まぁ気にするなよ。今度はお前の裸を見せてもらうから」
た、多分冗談だとは思います……
で、ですが……その、えっちな隣人さんです。
もしかしたら本気かも知れません……
で、ですので私は……
「お、お望みでしたら……」
と答えました。
「頼む。冗談だから本気にしないでくれ……」
で、ですよねぇ……
ため息混じりに言われた彼の言葉に、私は少しだけ悔しい気持ちを持ちながらも、こんな対価みたいな形で彼に見せることがなくて良かったと思いました。
そして、私は彼からボディタオルを受け取りました。
「好きにしてくれ。多少強めに擦ってくれる方が嬉しいかな」
「わ、わかりました。では、失礼します!!」
私はそう言って、彼の背中にシャワーをかけました。
だ、大丈夫ですよ!!きちんとお湯が出るようになってから、彼の背中を濡らしていきます。
そうした後、私はボディソープを付けて泡立てたボディタオルで彼の背中を擦っていきます。
私が使ってるボディタオルより、かなり目の粗い物を使ってますね。こんなのでゴシゴシしたら、私の柔肌だったら真っ赤になってしまいます。
そんなことを思いながら、彼の背中をゴシゴシしていると、
「もう少し強くていいぞ?」
何だか物足りなさそうな声でそんなことを言われました。
「え?結構強くやってますけど?」
私がそう言うと、彼は少しだけ笑いながら、
「あはは。まだまだそんなんじゃ俺は満足出来ないぞ?」
なんて言ってきました。
「わかりました!!目いっぱい強くやりますよ」
少しだけ悔しくなった私は、彼の背中を力いっぱいゴシゴシしてやりました!!
「おぉ……いい感じだな」
彼がそんなことを言った時でした。
濡れたタイルで力を込めてたのがいけなかったのでしょうか?
私はツルッと滑ってしまいました。
「わわ!!」
「美凪!?」
私は転びたくない一心で彼の身体に抱きつきました。
泡とお湯で濡れた彼の体を思いっきり抱きしめてしまったので、私の服はびしょびしょです……
「す、すみません……滑りました……」
「わ、わかったから……怪我は無いか?」
少しだけ焦ったような声で言われた、私の身を案じる彼の言葉に、私は自分の身体は無事だったことを伝えます。
「はい。隣人さんに抱きついたお陰で転ぶことは無かったです」
お風呂場で転ぶと痣になったり、下手したら骨折とかもあります……
部屋着がびしょびしょになったくらいなら、全然マシな方だと思います。
一応。彼にも服が濡れたことは伝えておきました。
「で、ですが……着ていた服はびちょびちょです……」
「だろうな……」
濡れた服のせいで、私は少しだけ身震いをしました。
いけませんね。このままでは風邪を引いてしまいます。
「これは、すぐに脱がないと風邪を引いてしまいますね」
「そうだな。身体が冷えるからな」
……………………よし。
私は覚悟を決めました。
「じゃあ。服を脱いで来ますので、一緒にお風呂に入りましょう」
「………………え?」
このまま濡れた服を着ていては風邪を引いてしまいます。
そして、まだまだ肌寒い四月に、冷えた身体のままでいるのも健康的ではありません。
私は浴室から出て行きます。
そして、服を脱いで彼と共にお風呂に入ることを決めました。
「お前!!マジで言ってるのかよ!!」
「はい。風邪を引いたら大変ですからね」
焦ったような彼の声。そうですね、覚悟が完了してる私とは違って、隣人さんには少し刺激的かも知れません。
「た、確かにそうだけど……」
ですが、やっぱり好きな人とは言え、裸を見られるのは恥ずかしいですからね。
視線は外しておいてもらいたいです……
私はそのことを彼に伝えました。
「あはは。ですが流石に少しは恥ずかしいので視線は逸らして貰えると嬉しいです……」
私はそう言って、浴室の曇りガラスの扉を閉めました。
曇りガラスの向こう側の彼は、お風呂用の椅子に座りながら、頭を抱えているように見えました。
あはは……
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