第七話 ~初めて食べた『レア』のステーキは非常に美味しかったと思った件~
第七話
レディースファッションショップの中を進み、美凪が入っている試着室の前へと辿り着く。
扉は閉まっていたので、コンコンと扉をノックする。
「来たぞ、美凪」
俺がそう声をかけると、
「ふふーん!!地上に舞い降りた天使を超え、もはやこの美しさは女神と言えるでしょう!!隣人さん!!この美凪優花ちゃんの美しさにひれ伏すが良いです!!」
ガチャリと扉が開いて美凪が姿を現した。
白のストールに薄いブルーのオフショルダーワンピース。彼女の言うように、言葉に表せないくらいの美しさだった。
「…………綺麗だな。お前のことを可愛いと思うことはあったけど、今のお前はとても綺麗だと思うよ」
「あ、あ、ありがとう……ございます……」
正直な感想を言うと、美凪は顔を赤くして俯いた。
「そ、その……そこまで褒められると照れますね……」
「そうか。ちなみにそのストールを取るとどうなんだ?」
「えと……こんな感じです」
「…………っ!!」
美凪の綺麗な肩が露になり、かなり色気が増したように感じた。
ダメだ。こんな美凪の姿を俺以外の男に見せたくない。
「…………禁止だ」
「……え?」
「俺の目の前以外でそのストールを取ることは禁止にする」
「あ、あはは……はい。わかりました」
美凪は苦笑いを浮かべながら了承してくれた。
良かった。これで安心だな。
「隣人さん。意外と独占欲が強いんですね?」
「……ダメか?」
「ふふふ。いえ、ダメじゃないですよ。寧ろ嬉しく思います」
「そうか。ちなみに、その服の代金は俺が出しても構わないけどどうする?」
「はぁ……何言ってるんですか?自分で買いますよ」
「そうか。じゃあまた俺は外で待ってるよ。着替えをして、会計が終わったら来てくれ」
「はい。了解です!!」
美凪はそう言うと、ふたたび試着室へと入っていった。
「ふぅ……あの美凪はやばかったな……」
正直な話。肩を出しただけであの破壊力なんだ。水着なんか着たらどうなってしまうんだよ……
ほんと、他の男になんか見せたくない。
俺だけが独占したい。
今から夏の予定のことはしっかりと考えておこう。
俺はそう思いながら、ファッションショップの外へと足を運んだ。
「すみません。少しレジが混んでいたのでお待たせしました」
少しだけ時間が経ってから、美凪は申し訳なさそうな表情でやって来た。
「そんなに待ってないから気にするな。あと荷物は俺が持つよ」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えますね」
その言葉をきっかけに、俺は美凪から洋服の入った紙袋を預かる。袋の大きさに反して中身は軽いので何の苦でも無い。
親父からの誕生日プレゼントで貰った時計で時間を確認すると、十三時になっていた。
昼時を少し外しているので混んではいないとは思うけど、その代わりにお腹はペコペコだ。
「じゃあ下に降りてイートインでステーキを食うか。そのあとの予定は食べながら話そうぜ」
「はい!!今から楽しみです!!」
俺たちはそう言って、美凪が朝希望していた『めちゃはやステーキ』へと足を運んだ。
『イートインコーナー』
エレベーターを使い一階に降りてから、有料のコインロッカーに買った洋服を預けておいた。
この後のことを考えると、こんなでかい荷物を持ってショッピングモールを歩くのは手間だからだ。
美凪と手を繋いで歩く費用に500円なら安いもんだろ。
そんなことを考えながら歩いていると、俺と美凪は店の前に立つ。
やはり飯時を少し外していたので人はそれほど居なかった。
「サーロインを300gで焼き方はミディアムかなぁ……」
「ほほぅ……300gとはなかなか食べますね。私はサーロインを200gでレアにします!!」
「レアってなんか生焼けみたいで怖いけど平気なのか?」
「お肉が柔らかく感じるので私は好きですよ?それに、今のところはあたったことは無いです」
「そうか。じゃあ俺も試してみるかな」
「ふふーん!!レアの美味しさを隣人さんも知るが良いです!!」
「ちなみにこれは食費になるから、美凪の分の支払いはお前のお母さんから貰ってるこのお金から出すからな?」
「なるほど。でしたら隣人さんの分もそこから出してください」
「……え?」
疑問符を浮かべる俺に、美凪は笑いながら言う。
「貴方にはいつもお世話になってますからね。そのくらいは許されますよ?」
「そうか。ならお言葉に甘えるかな」
そんな会話を経て、俺と美凪は肉とご飯を注文した。
俺はサーロインを300gでレア。ご飯は大盛り。
美凪はサーロインを200gでレア。ご飯は特盛にしていた。
本当にお前はご飯が好きだな。
「ふふーん!!これは美味しそうです!!」
「確かに。暴力的な匂いがしてるな」
テーブルにステーキとご飯を並べた。
俺と美凪はそれを見て期待が高まる。
「さぁ!!さぁ!!食べましょう!!」
「そうだな。早く食べないとレアがミディアムになるからな」
俺たちはそう言うと「いただきます!!」と声を揃えてからステーキを一口サイズにカットして、口の中に入れた。
「……うめぇ」
なんだこれ。めちゃくちゃ美味いぞ!!
肉にかけたタレの味もそうだけど、レアの肉の柔らかさが絶妙だ。ミディアムの時よりもかなり柔らかさを感じる。
噛めば噛むほどに溢れる肉汁は良い肉を使ってる証拠。
安いからと言って悪い肉を使ってる訳では決して無い。
タレの味でごまかすようなマネもしてない。
てかこのタレはどうやって作ってるんだ……
家庭で再現できるようなレベルじゃないぞ……
朝に俺が言った言葉は悪いけど訂正しないとな。
これは……再現は無理だろ……
「初めて食べましたけどこれはすごく美味しいですね!!ちょっとびっくりですよ!!」
「そうだな。オレもここまでレベルが高いとは思わなかったよ。てか、すまんな美凪。このタレは作れねぇわ」
俺が苦笑いをしながらそう言うと、美凪も笑いながら言葉を返してきた。
「あはは。隣人さんでも出来ないことがあると知れて私は少し嬉しいですね」
「俺に出来ることなんてたかが知れてるよ。まぁでもそうだな……この味を目指して少しタレの研究をしてみても良いかもな……」
ステーキだけじゃなくてもこのタレなら何にでも使えそうな気がする。
「味見ならいくらでもやりますのでお声掛けください!!」
「あはは。その時はよろしく頼むわ」
そしてそんな会話をしながら、俺と美凪はステーキに舌鼓を打ちながら昼ご飯を全て食べ終えた。
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