第十二話~腹ぺこお嬢様が家にやって来た件(二回目)~

 第十二話





「ふふーん!!大したことないですね、隣人さん!!」


 エアホッケーで圧勝した美凪はドヤ顔で俺を煽ってきた。


「そうだな。俺の完敗だ」

「……な、なんですか。潔すぎて引きます」


 眼福だった。とても幸せな時間だった。

 ふぅ……終わってしまったのが名残惜しいけど仕方ない。

 だが、あの光景を他の男には見せたくなかった。

 俺だけが堪能できて本当に良かったと思った。


「美凪。喉が渇いただろ?何が飲みたい。奢ってやるぞ」

「怖い怖い怖い怖いです!!何ですか!?めちゃくちゃ優しくて怖いんですけど!!」


「幸せな時間をくれたんだ。対価くらい支払うさ」

「そ、そうですか……ふ、ふふーん!!そうですよね、これほどの美少女とエアホッケーが出来たんです。感謝してください、隣人さん!!」

「ありがとう、美凪。またやろうな?」

「本当になんなんですか!!怖いです!!」


 そんなやり取りをしながら、自動販売機の前に来る。


「何が飲みたい?奢ってやる。というか金が無いから俺が払うしかないけどな」

「そうですね。動いたのでスポーツドリンクが良いです」

「おっけー。俺は……烏龍茶かな」


 俺はお金を入れて美凪のスポーツドリンクと俺の烏龍茶のペットボトルを買う。


「ほらよ」

「ありがとうございます!!」


 俺と美凪はベンチに座って飲み物を飲む。


 火照った身体が冷えていく。

 あーうめぇ


「烏龍茶って独特の味がしませんか?」

「まぁな。でもこれが好きなんだよな」


 そんなことを言ってると、美凪がジッと俺の烏龍茶を見てる。


「一口ください」

「マジで?」


 そういうの気にしないのか?


「え。もしかして隣人さん。間接キスとか気にしちゃうタイプですか?」


 にたーっと笑う美凪に、


「いや、俺よりお前の方が気にすると思ってたわ」


 と返した。


「ふふーん。じゃあ飲みのものを交換しましょう!!」

「おっけー」


 そう言って俺と美凪は飲み物を交換する。


「スポーツドリンクって結構甘いんだよなぁ」


 ぶっちゃけジュースだよな。


 なんて思いながら飲む。


 …………。

 なんだろ。やっぱり特別な感じがするな。


 そう思って隣を見ると、


「…………なるほど」


 と顔をしかめる美凪が居た。


「渋いです!!」

「だろうな」


 俺は手にしていたスポーツドリンクを美凪に返すと、彼女も烏龍茶を返してきた。


「口直しです!!」


 と言いながらスポーツドリンクをもう一口飲んでいた。


「私にはまだ早い味でした……」

「そうか」


 俺は美凪から受け取った烏龍茶を一口飲んでみる。


 さっきより少しだけ甘いような気がしたのは、あいつが飲んでたから。なのかもしれない。



 そして、そんなやり取りをして二人で少しボーッといると、結構いい時間だったようで。


「そろそろいい時間だし、解散するか!!」


 幸也が俺と美凪が座ってるベンチに歩いて来ると、そう言った。


 時間を見ると、十七時だった。


 そうだな、明日もあるしこの辺で解散しとくか。


「おっけー。じゃあそろそろ帰るか」


 俺は幸也に了承を示す。


「奏はもう外に出てるからさ」

「わかった。こっちもすぐに行くわ」


 立ち去る幸也を見送り、俺は美凪に話し掛ける。


「よし、行くか」

「そうですね。思いのほか楽しかったです!!」


 俺と美凪はベンチから立ち上がり、ゲームセンターの外へと向かった。




 店の外に出ると、既に二人が待っていた。


 そして、四人組に戻るとサイセリアに停めていた自転車の場所まで戻る。


「じゃあな、凛太郎。また明日!!」

「優花ちゃんもまたね!!」


「じゃあな幸也」

「はい。奏さん、また明日」


 そんなやり取りをして俺たちは別れる。


「じゃあ俺達も帰るか」

「そうですね」


 自転車を漕いで同じ方向に帰る。

 特に会話もなく帰ってきた俺たち。


 程なくしてマンションへとたどり着く。


「じゃあな美凪。また明日」

「はい。隣人さんも、また明日」


 部屋の前まで来た俺たちは、そう言って別れた。



「ふぅ。今日も疲れたな……」


 部屋を進む俺は少しだけ違和感を覚える。


 親父が寝てる。いや……居ないんじゃないか?


 人の気配がしない。

 俺は親父の部屋を見ると、そこに姿は無かった。


「また仕事に呼ばれたのかよ……」


 システムエンジニアって仕事は本当にブラックだな。


 俺はそう思いながら、就職先には絶対に選ばない。


 そう心に決めた。


 そして、今日の夕飯はどうしようかな?と冷蔵庫の中を見る。


「…………まともな食材がねぇな」


 ハンバーグに使った野菜の残りしか無かった。

 流石に肉は食いたい。


「今から買い物に行くか……」


 下の牛丼屋で食べる。と言う選択肢は無い。


 生活費の管理は俺がしてる。あまり無駄遣いはしたくないからだ。


 そう考えていると、スマホのメッセージの通知に今気が付いた。


『凛太郎!!ごめん!!新規の案件が本当にヤバいみたいで泊まり込みでやらないとダメみたいだ。一ヶ月は会社に寝泊まりする必要があるんだ……』


 マジかよ……


 俺は親父に、


『身体に気をつけろよ。俺なら平気だから安心しろ』


 と返信をしておいた。


「さて、どうするかな……」


 今日の夕飯を一人分。となるとぶっちゃけ下の牛丼屋でも良い気がしてきた。

 親父の分も考えると作った方が安いけど、俺一人ならスーパーに買い物に行って、料理を作ってなんてやるよりも楽だし早い。


「牛丼で済ませるか……」


 なんて思いながら椅子から立つと、


 ピンポーン


 とインターホンが鳴った。


 なんだろ……デジャビュを感じる。


 俺はインターホンのカメラに映った人物を確認する。


 そこに居たのは、栗色の髪の毛を腰まで伸ばした美少女。

 美凪優花が立っていた……


「……なんの用だよ」


 俺はそう呟いて、玄関へと向かう。


 そして、ガチャリと扉を開ける。


「なんだよ美凪。どうしたんだ?」


 俺がそう言うと、美凪は昨日と同じ目をしながら、こう言った。


「隣人さん……お願いします。私に……ご飯を作ってください……」


 と。

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