身ごもった伴侶達と王位について




「ダンテ様、側にいてください……」

「ダンテ、側にいてくれ……」

「ダンテ、頼む離れないでくれ……」

「ダンテ、側に……」

「分かっています、私は貴方達の側に」

 体調の不良は侍女達が主に担当してくれるが、妊娠したことによるメンタルのがたつきは私でしか解消できないため、私は基本伴侶達の側にいる。

 で、ちょっとばかり相手ができないエドガルドは──


「あのエドガルド、何をしているんですか?」

「父上が退位したいなどふざけた事を言い出したので、祖母に連絡している最中だ」

「は、はぁ……」


 父上は良い国王だと評判はいい。

 対外的には。

 身内評価だと、母上ぞっこんすぎるのでちょっと困りものな所がある。

 いや、ちょっとじゃねぇや大分だ。


 通話術越しにだが、祖母の静かにキレている声が伝わっているので、父は絞められるなと思った。



「ダンテ」

「母上」

「ちょっといいかしら、貴方達からダンテを借りても」

 母上は伴侶達に言う。

 伴侶達は力なく頷いた。

「ごめんなさいね、できるだけ早く返すから」

 私は母上に手を引かれて別室に移動した。

「ダンテ、どうして全員同時に妊娠させたの?」

「すみません、母上。私の説得力がないため……」

「どうしたの?」

「……四人が同時に妊娠を求めまして……私は一人ずつがいいんじゃないかと言ったら、それだと優劣がつきかねないと言われまして」

「あらあら」

 母上は困ったような顔をした。

「ダンテ、貴方が伴侶の方々を大事にしてるのはしってるわ。でも貴方自身も大事にして欲しいのよ」

「私自身を?」

「ほら、鏡をご覧なさい」

 恐る恐る鏡を見れば、私の顔にはクマができ、どこかやつれた表情になっていた。

「伴侶を思うあまり、貴方は自分をないがしろにしてるの。だからどうか私を頼ってちょうだい」

「母上……」

「あの人は退位したいなんていってるけど、早々簡単に退位はさせないから安心して子育てなさい」

「はい……」

「そのときも、私を頼っていいのよ。皆を頼っていいの」

「分かりました……」

 手を握り、私の顔を見る母。


 穏やかだが、あの父上の手綱をとっているのだ、問題はない。

 と、思いたい。


「母上、父上は一体どうして?」

「あの人が来ると胎教に悪いから仕事漬けにさせているわ」

「……父上ェ……」


 自分の奥さんに胎教に悪い言われるってどうよ、父上?


「あと、先ほどお義母様がいらっしゃられたから、監視されているし、説教もされてるわ」

「御祖母様……父上……」

 どんな状況になってるのか若干気になった。

「気になる?」

「え? その、えっと」

「顔に出てるわよ、少しのぞき見に行きましょう」

 私は母に引っ張られるようにしながら、父の仕事場へと行った。


「ひぃひぃ……お、終わった」

「まだだぞ。まだ妊娠魔術の要望の処理が終わってない」

「母上!! そろそろ休ませてくださいよぉ!!」

 半泣きの父と、冷たい表情の祖母がいた。

「やかましい!! 子育てで忙しくなりそうな孫に仕事押しつけて退位して、自分は嫁とゆっくりするなど不純すぎるわ!」


──まーだ、そんな考えを──


「だって、ダンテの方が国王に向いてるじゃないですか!?」


──ないない──


 父の言葉に心の中で否定する。


「はっきり言おう、ダンテはまだ国王の器ではない。それになるまでには時間がかかる」


──御祖母様グッジョブ──


 私は祖母の言葉に心の底から感謝した。


「しかし、皆はダンテは国王にふさわしいと……」

「それは外から見た連中の意見だ、あの子の中身を見てみろ。臆病で優柔不断で、今回の親の件も本人は否定的だったと聞く程だ」


 どうやら、祖母にも私が子作りにあまり積極的ではないというか否定的、なのが伝わっていたらしい。


「じゃあ、未熟だった私に王位を継がせた母上はどうなんです?!」

「あれはアデーレがいたから継がせたんだ。お前の妻がお前を国王にふさわしい存在にしていたから私は退位し、王位を継がせたんだ」

「ではダンテは?!」

「ダンテの所は未熟な伴侶が多い、成熟しているのは一人くらいだ。そんな中で王位を継がせてみろ、未熟な伴侶の為に仕事をどうにかしようとしてぶっ倒れるダンテの姿が私には見えるぞ」


 祖母からすると、未熟な伴侶がいるらしい。

 私的にはそこまで不安はない……いやエリアがまだちょっと不安か。

 他の伴侶は問題なさそうな気もするが……


「エドガルドがいるではありませんか!!」

「阿呆、比翼副王のエドガルドも未熟だ。あの子はちょっとしたことで精神がぶれる」


 エドガルドの精神状態を見透かすように祖母は言う。


「エドガルドはダンテがぶれないように側で見張る意味もある。だが、エドガルドの未熟さがダンテの負担となっている」


──いや、負担に、なって、ない、ですよ?──


 などと思うが、のぞき見しているので言えない。


「分かったらさっさと仕事を進めろ!」

「わー! 誰だ、母上を呼び出したのは!」

「エドガルドだ、そこら辺は有能だな」

「エドガルドー!」


 祖母に、しごかれながら仕事をしている父を見て、ちょっとげんなりした。



 確かに御祖母様の言う通り私は未熟だ。

 対外的に見れば何でもできるように見えるが、それは無理した結果だ。

 無理をして倒れるのが私だから、そうならないようにする必要がある。


「ダンテ」


 母上の声に反応すると、母上は私の手を握った。

「お義母様の仰るとおり、貴方はまだ未熟な子ども」

「……」

「だからこそ、大人になる為に、貴方が成すべきことをなしなさい」

「私の、なすべきこと……」

 私はその言葉に悩んだ、すると母上は微笑んで言った。

「今のところは、伴侶の方々の側にいることね。戻りましょう」

「……はい!」

 エリアやクレメンテ、アルバートやカルミネにしてあげられる事は私にはほとんど無いが、それでもしてあげられることはしてあげたかった。



 部屋に戻ると、べそをかいてるエリアとクレメンテがアルバートとカルミネに慰められていた。

「お待たせしました。エリア、クレメンテ、どうしました? アルバートとカルミネも大丈夫ですか?」

 エリアとクレメンテの手を握り、アルバートとカルミネの顔を見る。

「俺は大丈夫だ……ただ、エリアとクレメンテがお前がいないことに不安になってな」

「俺も正直不安だけど、べそかく程じゃないぜ」

「お二人も無理しないで下さいね」

 生まれつき精神が安定している組はやはり違う。


 が、アルバートはちょっと心配なので後でフォローを入れよう。

 カルミネにも。


「エリア、私は側にいますよ。クレメンテ、側にいますとも」

「だ、ダンテ様ぁ……」

「ダンテ……」

 頬を撫でて、涙を拭い、二人に寄り添う。


 私が今できることをするだけだ。

 そう思いながら、他にもやるべき事は無いか頭を回転させた。






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