ダンスパーティ~神様の予想外の言葉~




 アウトゥンノ王国をのんびり観光しつつ、屋敷で過ごしているとエルヴィーノ陛下から、ダンスパーティを開くから来てくれないかと言われた。


「ダンスですか……」


 私は額に手をやり、眉間を抑える。

「どうしたんだ、ダンテ」

「いえ、公式に伴侶ではないエドガルドとダンスができないのがちょっと……」

「気にするな、あとで帰ってきてからすればいい」

 エドガルドはそう言うと、にこりと微笑んだ。

「ありがとうエドガルド、となると順番か……」

「クレメンテが一番で、次にエリア、三番目にアルバート、四番目に俺でいいぞ」

 カルミネがそう言ったのに、他の三人は頷いた。

「分かりました、その順番で踊りましょう……しかし、ダンスですか」

 私はため息をつく。

「ダンテ、何故あれほど美味く踊れるのに苦手意識があるのだ?」

 エドガルドの質問に私は苦笑いを浮かべることしかできなかった。



──はい、前世で苦手だったことだからです!──


 などと言うこともできない。


「失敗して、皆様に迷惑をかけたらと思うと……」

「それはこちらの台詞ですダンテ」

「は、はい、そうです」

「ダンテ……お前はダンスが上手いのにどうしてそうなんだ?」

「まぁ、ダンテらしいといえばらしいがな」


 最終的に皆私がダンスに苦手意識があるというのを納得してくれた。


 そしてその日の夜──

 皆着飾り、ダンス会場へ行くと貴族の方々がこちらを見てうっとりとしてきた。


 ちょっとそれにげんなり。


 何か見世物にされてるみたいで。


「ダンテ殿下」

「エルヴィーノ陛下、お招き頂き有り難うございます」

「いえいえ、クレメンテから聞きました。ダンテ殿下はダンスに苦手意識がおありだと、初めて知りました。故に申し訳ない」

「いえ、お気になさらず」

「そうですか……では楽しんでいってください」

「はい」

 エルヴィーノ陛下がいなくなるとフィレンツォに小声で語りかける。

「フィレンツォ、エリア達に悪い『虫』がつかないよう護衛を」

「かしこまりました」

「特にエドガルドにつかないように」

「勿論です」

 伴侶とは違い、比翼副王であるエドガルドに取り入ろうとする者が出ないとは限らない。

 比翼副王は伴侶を持つことができる。

 だが、エドガルドは非公式で私の伴侶だ。

 公にできないが故に、知らずに近づいてくる連中がいるかもしれない。


 また、気弱なエリアに対しても取り入ろうとする輩がいるかもしれない。


──気をつけなければ──



 そう考えていると、音楽が鳴り、クレメンテが手を差し伸べてきた。

 私はクレメンテの手をとり、微笑んで共に踊り始める。


 神様の加護的なアレで、踊りも上手にできるので安心なのだが、やはり苦手意識は消えない。

 微笑みを浮かべつつ、慎重に踊る。


 音楽が終わり、次の音楽が来るとエリアがやってきた。

 クレメンテはエリアの方をぽんとたたき、エリアは少しおっかなびっくりな表情を浮かべながら私を見る。


 私は微笑み返して、手を握る。


 それで安心したらしいエリアと共にゆっくりと踊り始めた──





 公式な伴侶の皆とは踊り終え、屋敷へと帰り話を聞く。

 フィレンツォからやはり取り入ろうとする輩がいたとの事だった。

 エドガルドとカルミネとフィレンツォで追い払ったらしく、後でエルヴィーノ陛下に報告して対処してもらう事にした。


 そして夜。

 二人だけの空間を作り、エドガルドと踊る。

 音楽はないが、エドガルドの優雅なダンスに合わせて踊った。


 そしてエドガルドと部屋に戻ると、他の四人がいた。


「どうしたんですか?」

 私がそうたずねると、エリアが抱きついてきた。

「きょ、今日はその……みんなで、いっしょに、寝て欲しいんです……」

「エリアに取り入ろうとする連中が多くてな、エリアが一人は怖いつーことで皆で寝るか、ってことにした」

「なるほど」

 エリアに取り入ろうとして怖がらせた輩にはしかるべき罰を与えておきたいと明日フィレンツォに伝えようかなと思っていると──

「安心しろダンテ、フィレンツォには私から既に伝えてある。『伴侶エリアを怯えさせた愚者達への対応を頼む』とな」

「エドガルド、貴方も仕事になれてきましたね」

「当然だ」

 誇らしげに言うエドガルドを見てから、既にベッドに寝っ転がっている三人とエリアを見て言う。

「じゃあ、皆で寝ましょうか」

 と。





 無論、ただ一緒に寝るだけで済むはずもなく、全員にまぐわいを求められたので、一人ずつ抱いて、満足してもらって漸く私も寝ることができた。


 その結果遅く起きる羽目になったがフィレンツォには怒られなかった。


「伴侶が五人もいるようなものですからね、ダンテ様は」


 とフィレンツォに言われたとき、

「まぁ、そうですよね」

 と、やや疲れ気味に言ったのが災いしてベッドに再度ぶち込まれた。


 それで、エドガルドやエリア達に世話をされながら朝食を食べている。

「あの、食事くらいなら一人でできますから」

「私達との行為の所為で、疲れ切ってるのだから大人しくしていろ」

「もが」

 スプーンで掬った粥を口に突っ込まれる。


 仕方ないのでもぐもぐと咀嚼する。


「味はどうだ?」

「美味しいですよ」

「そうか、ならよかった」

 何処か安心している五人を見ると、味付けが普段と違うとこから、五人で作ったのかなと思ってみた。

「もしかして、皆さんで?」

「!! ああ……フィレンツォに我が儘を言ってな」

「そうですか……有り難うございます」

「いつもフィレンツォ便りの料理で、たまには私達も作ってみたかったのだ」

「それは嬉しい限りです」

 私はそう返した。

「……それにしても、眠い……」

「食事が終わったら眠るといい」

「そうですね……そうします」


 食事を終え、久々にパサランを呼ぶと、抱き枕サイズになって貰い、抱き枕にして眠った。

 ふかふかふわふわな感触に私はすぅっと眠りに落ちた。





『さて、ダンテよ。言わなくてはならない事がある』

「へ? 何をですか?」

 神様に呼び出され、何事かとぼんやりとした顔で考える。

『お前の伴侶達は、子どもを欲しがっている』

「へー子どもかぁ、子ども……」

 しばし無言になる。

「はぁ?!」

 素っ頓狂な声を上げてしまう。

 いや、あげるだろう普通。

「まだ世間的に新婚ほやほやですようちら!」

 と言えば神様はため息をついた。

『だが、学生時代から既に結婚しているのに近い生活をしていただろう』

「それは、そうですが……」

『まぁ、向こうから言ってくるからそのときの対応だな』

「どうすりゃいいんですか?」

『お前はどうしたい?』

 私は悩んだ末口にした。

「うーん、子どもを育てていく自信が無いのが正直な話です」

 私は神様に正直に話したのだ。

 自分の気持ちを。






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