第26話
それから、ウカノはすぐさま保健室へと直行となった。
手持ちの回復薬では、傷が治らなかったためだ。
他にも治癒魔法使いがいたが、効果が無かった。
そのため、より高度な魔法が使える保険医を頼ることとなったのである。
一方、アールは特に怪我が無かったので、事情説明のために教師たちへどごぞへと連れていかれた。
「ありゃりゃ、こりゃ酷いねぇ」
保険医は呆れたように言って、上級回復薬をぶっかけてくれた。
さらに、治癒魔法も施してくれた。
「んー、効きが悪いなぁ」
「そうなんですか?」
「治らないわけじゃないんだけどね。
今は特に痛いとかある?」
「普通に痛いです」
「じゃあ、鎮痛剤出しとくね」
人間用の鎮痛剤を渡された。
小瓶に入ったそれを見ながら、
(家畜用のが効くんだけどなぁ。
まぁ、いっか)
と内心で呟いてしまう。
口には出していない。
魔法の効きが悪いので傷は、ほぼそのままだった。
見た目もアレなので、包帯でぐるぐる巻きにされてしまう。
「歩けるかな?
杖は使う??」
「はい。ありがとうございました。
普通に歩けるので、杖はいりません」
ウカノは頷くと礼を言って、保健室を出た。
外では教師の一人が待機していて、怪我の具合をたずねてきた。
保健医に言われたことをそのまま伝える。
そして、
「軽くでいいから、君からも何があったのか聞きたい。
説明できるかい?」
教師がそう確認してきた。
ウカノの調子が悪いようなら、明日以降に改めて話をきくつもりらしい。
しかし、こういった怪我はある意味慣れていたので、ウカノは説明出来ると返した。
そのまま、職員室へと連れていかれる。
そこには、実技授業担当の教師たちが待ち構えていた。
椅子を用意され、そこに座ると、ウカノは何が起きたのか説明した。
ただ、ウカノの本来の目的は欠片も話さなかった。
話を聞いた教師達は難しい顔をする。
「突然変異種か?」
「でも、あんなモンスター見たことはないぞ」
「とにかく、ディケンス含め、他の生徒に怪我がなくて良かった」
こういう時、本音が見え隠れするものである。
しかし、ウカノは気にしなかった。
頃合を見計らって、教師たちにこう訊ねた。
「あの、もう帰ってもいいですか?」
この騒動のせいで、他の生徒たちはすでに帰宅している。
ウカノもさっさと帰りたかった。
というか、エステル達に報告をしたかったのだ。
「あ、あぁ、いいぞ」
教師の一人がそう言ってくれたので、ウカノはさっさと立ち上がると職員室を出た。
普通に歩けると言えば歩ける。
けれど、微妙に痛いので歩き方がぎこちなくなる。
生徒玄関にたどり着く。
仕事用として、魔法袋に突っ込んだままにしてあった靴に履き替えた。
そして、玄関を出ようとする。
すると、誰かが玄関を塞ぐ形で立っていた。
アールだった。
「どういうつもりだ?」
アールは不機嫌な声で、そう聞いてきた。
「?」
ウカノは意味がわからずに、疑問符を浮かべる。
「助けたつもりか?
なんなんだ、お前??」
「だって、君、殺されそうだったし。
そんなの見たら、助けるでしょ普通。
だから、助けたつもりじゃなくて助けたんだよ」
「……昨日の今日だろ、なんで助けた?」
「え、叱られたこと気にしてるの?
で、普通は叱ったり怒ったりした相手が危なくなっても助けないとでも??
君、馬鹿だねぇ」
「はぁっ!?」
「
イコールじゃない。
相手を叱ったり怒ったりしたからって、その相手の事が嫌いなわけじゃない。
それだけの事だ。
はい、ちょっとそこどいて、帰るから」
ひょこひょこと、少しぎこちない歩き方でウカノはアールの横を通り過ぎる。
アールは、そんなウカノになにか言おうとする。
でも、声も言葉も出てこない。
アールは、ぎこちない歩き方で帰っていくウカノの背中を見送るしか出来なかった。
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