第20話

謹慎生活五日目。


定時連絡の少し前にウカノは目覚めた。

眠って一時間も経過していなかった。

ウカノは空中へ指を滑らせる。

するととても薄い画面が表示された。


「おはようございます。

定時報告です」


頭をかいて、欠伸をしながらウカノは画面に向かってそう言った。


『おはよう、ってなんか疲れてないか??』


今回出たのは、書類上は義理の父となっているアエリカだった。


「ちょっと色々ありまして」


ウカノは色々の部分を報告してもいいものか、迷った。

彼がここにいる理由には関係ないことだからだ。


『いろいろ?』


「冒険者ギルド関連の仕事をしてきました。

盗賊退治です。

疲れました」


盗賊退治、の部分にアエリカは興味を示した。


『へぇ、パーティを組んだの?』


「えぇ、まぁ」


『どんな子達?』


ライドのことを話すべきか、ちょっと考えた。

でも、隠すことでもないので正直に答える


「俺ともう一人、ライドって奴と退治に行きました。

なんか物凄く怖がってました。

アイツが誘ってきたのに」


ウカノはその辺のことも詳しく話し出した。

主に使った作戦について、話した。

それを聞いたアエリカは、楽しそうにニコニコしている。


『エステルが喜びそうな作戦を使ったのか』


「まさか、あんなにあっさり仕留められるとは思ってませんでした」


『でも、頑張ったんだね。

よしよし、冒険者としての初仕事成功おめでとう。

お祝いにあとでケーキ送るよ。

チョコでいい?』


ウカノはこくりと頷いた。

義理の親には素直なのだ。


『じゃあ、まだまだ色々大変だろうけど頑張ってね』


「はい」


『それと、よく出来ました』


それで、通信は終わる。

褒められたことが、少しむず痒い。

本当の父親からは、1度だって向けられたことのない言葉だった。


それを受け取って、ウカノは久しぶりに素で笑ったのだった。


それから、もう一眠りする。

起きたのは昼だった。

ウカノは伸びをして、午後からの予定を組み立てた。

食事をとって、家を出るとライドが玄関先で蹲っていた。


「まだ居たのか」


鍵は開けっ放しなのだから、勝手に入ってくればいいのに。

そう思いつつ、ウカノは呟いた。


「あ!ウカノさん!!

お出かけですか?」


犬みたいな反応に、さすがに苦笑がでてしまう。


「農業ギルドに酒の代金払いに行くんだよ」


農業ギルドと聞いて、ライドのテンションが上がる。

また食堂を利用しようと考えているのだろう。


「酒……あ、昨日の盗賊退治の時の?」


「そ、なにせ業者並みに買い込んだからなぁ。

報酬が全部飛ぶ」


「そういえば、王室御用達の酒もあるって言ってましたね」


「基本飲みやすくて、度数の高い酒を選んだからな」


「?」


「お前、酒は飲むか?」


「嗜む程度には。

でも、盗賊たちみたいにガバガバ飲みません」


「飲みやすくて度数が高いってのが、どういう意味かわかるか?」


「美味しいお酒ってことですよね?」


「悪酔いしやすい酒ってことだ。

飲みやすいからってあんなにガバガバ飲んだら、確実に潰れる。

しかも、それをちゃんぽんしたんだ。

下手な毒より効いてただろ?」


たしかに、酒を飲みなれている盗賊たちが揃って潰れていた。


「空腹時を狙ったらもっと早く酔いつぶせた。

というか、一気飲みさせて、急性アルコール中毒も狙ってたんだけどな」


「怖いっすよ!!」


「相手はもっと怖かったろ」


「そうですけどぉ」


「というか、なんでお前着いてくんの?」


「いや、パーティ仲間じゃないですか!!

冷たくしないでくださいっす!!

交流深めましょうよ!」


「……今回限りだろ。

俺は冒険者としては活動しない予定だ」


「え?」


「学校があるからな」


「じゃあ休みの日!

学校が休みの日に、また一緒に仕事しましょう!冒険しましょう!!」


「だぁぁあ!!

俺は忙しいんだ!!」


そうこうしているうちに、農業ギルドの建物へと着いた。

関係者と一緒でないと入り難いらしく、ライドはウカノに着いて来たのだった。


「なんなら、農業ギルドのカード作ればいいだろ」


つっけんどんに、ウカノが言うとライドが目を丸くする。


「え、作れるんですか?

俺、農民じゃないですけど」


「作れるぞ。

たまに家庭菜園してる街の人とか、農業ギルドのカード作って、野菜持ち込んでくるし」


そんなことを言って、ウカノは受付へとライドを連れていった。

そして、置き去りにする。

受付からライドが説明を受けてる間に、ウカノは建物の奥へとむかう。

目指すのはエリが居るだろう、執務室だ。


執務室には予想通りエリがいた。


「お疲れ様です、エリさん」


エリはさらにクマを酷くしていた。

ウカノの顔を見ると、瞳をうるませて泣きついてきた。


「ウカノくーん!!

助けて!!

今度は、西の方でスタンピードが起きた!!」


「えぇ、俺だって疲れてるのに。

というか、今日は昨日の酒代を払いに来ただけなんですけど」


「人かき集めて送ったけど、かなりまずいの!!

お願い!!

手練の人達、軒並み今の時期筋播きやハウス作りで人取られてて!!」


純粋な人手不足のようだ。


「わかりましたよ。

あ、そうだ」


答えて、ライドの顔が浮かんだ。

倒したモンスターの解体を手伝わせようと思いついたのだ。

ウカノは酒代やら諸々をエリに渡す。

かなり無理を言って融通をきかせてもらったのだ。

それから、受付に戻る。

ライドの手続きは終了していた。

受付でスタンピードのことを話すと、転移魔法の札を渡された。

ついでに、処分するだけの武器もいくつかもらう。

ライドの首根っこを引っ掴んで、説明無しにウカノは彼と一緒に転移した。


「え、あの、ウカノさん?

スタンピードがどうのこうのって聞こえたんですけど?」


「あぁ、これから止める。

お前は倒したモンスターの解体頼む。

それくらい出来るだろ?」


「え、えええ?!」


「人手不足なんだ、盗賊退治に協力したんだからこっちの事も手伝え」


小高い丘の上に二人は降り立った。

その向こうから、土煙を上げるモンスターの群れが見えた。


「う、うそでしょぉおおお!!??」


「大丈夫、金なら払う」


「そういうことじゃなくってぇぇえええ!」


ライドの悲痛な叫びがあがる。

しかし、モンスター達の咆哮にかき消された。

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