第17話
「なぜだ」
依頼を受けるのは、絶対無理だと思ったのに許可がでてしまった。
「これを、ウカノさんの昇級試験代わりにするみたいっすね」
冒険者ギルドに併設された酒場兼食堂。
その片隅のテーブルには、項垂れているウカノと逆にウキウキしているライドがいた。
「ついでに俺の昇級試験扱いにもしてくれるらしいっす」
「さいで」
「ほらほら、早く盗賊退治いきましょうよ!!」
「……その前に聞きたいんだけど。
件の盗賊ってどういう奴なんだ?」
「え?」
「受付さんやギルドマスターは色々説明してたみたいだけど、俺ここに座ってたから話聞いてないんだよ」
「あ、なるほど。
じゃあ、少し説明しますね!
今回、街を襲ったのは危険度で言うとSランクにあたる凶悪な盗賊、ヴェリルハーフバルトです。
時には、貴族ですら襲う怖いもの知らずで、指名手配されています」
そこまで説明すると、ライドは貼り付けられていた手配書を持ってくる。
「依頼書でもない掲示物を、勝手に剥がすのは良くないと思うぞ」
ウカノが真っ当なツッコミを入れる。
「大丈夫っすよ」
ライドは気にせず続ける。
「とりあえず、これがその盗賊の顔です。
手下もいるので、盗賊団ですね。
とにかく強くて、金と女に目がないらしいっす」
手配書には、むさ苦しい髭面が書かれている。
「……盗賊で金と女性に目がないやつっていないよなぁ」
「あ、やっぱり盗賊退治経験者なんですね!」
「実家の畑がよく荒らされてたから、村の皆で迎え撃ったことがあるだけだ」
「え、冒険者の人と協力したんじゃないんすか?」
「違うよ」
詳しく話すのも面倒なので、ウカノは村のことは話さなかった。
「でも、Sランクか。
ますます、Dランクの俺たちがクエストを受けられた理由が
理解できないな」
「そんなことより!
早く、退治に行きましょうよ!!
他の人に先越されちゃいますよ!!」
「……その方がいいだろ」
「良くないっす!!」
「早い者勝ちってことでもないと思うけどなぁ」
危険度がSということは、逆に言えばずっと捕まらずにいた凶悪犯ということだ。
ウカノの経験からいうと、この盗賊はずっと生き残ってきた強者だ。
つまり、経験も知識も兼ね備えている。
もしかしたら、冒険者が来ることも見越しているかもしれない。
だとするなら、
(俺だったら、罠をはるかなぁ。
で、冒険者を一網打尽にして武器や防具を逆に奪う)
奪ったそれを使うもよし、売って金にするもよし。
こんなところか。
そもそも、二人を逃がしてるのが引っかかる。
運良く逃げられたのかもしれないし。
もしかしたら、それ自体が冒険者をおびき寄せる餌なのかもしれない。
「とにかく、退治するなら武器が必要だろ。
あと作戦。
お兄さん、武器はあんの?」
「そのお兄さんってのやめてくださいよ!
ライドでいいですから!!」
「じゃ、ライドは武器あんの?」
「ありますよ、短剣ですけど。
そういうウカノさんこそ、武器は?
ダークドラゴンの時はナイフを使ってましたよね?」
「そっちこそ、その変な敬語やめろ。
呼び捨てでいい」
「えぇ。口癖なんすよ」
「とりあえず、名前は呼び捨てにしろ、むず痒いから」
いつも誰からも基本呼び捨てだった。
学園では君付けだけど、あれも物凄くむず痒かったりするのだ。
エリからも君付けされているが、そっちは別に気にならない。
何故かはわからなかった。
「うぅ、わかりました!」
そうこうしているうちに、他の冒険者達がドタドタと盗賊退治へ向かっていく。
それを見て、ライドが焦りを見せる。
「ほらほら!
早くしないと!!」
「腕を引っ張るなって。
焦っても仕方ないだろ」
さっきとは逆で、今度はウカノがズルズルと盗賊退治へ引きずられていくのだった。
けれど、その足はすぐに止まることとなった。
なぜなら、冒険者ギルドを出たところで、他の冒険者達が無理だなんだと口をはさみ、ウカノ達が盗賊退治に向かうのを妨害してきたのだ。
「ガキは家に帰りな」
と言われてしまう始末だった。
ついでに凄まれてしまう。
ライドは元々小心者なのか、凄まれただけでウカノの背に隠れてしまう。
プルプルと子犬のように震えてしまう。
「お前、よくそんなんで盗賊退治しようって言い出せたな」
ウカノも呆れるしかない。
「だってだって~!
手柄ほしいんですよ!
昇級したいんですよ!!」
そんなやり取りを見た、妨害してきた冒険者たちは嘲笑して盗賊退治へと向かっていく。
その背を見送ってから、ウカノは口を開いた。
「途中でまたグチグチ言われても面倒だ。
向かうのは、時間を置いてからにしよう」
ライドは、今度はさすがに頷いた。
ただ、ぼうっと時間を潰すのもあれなので、ウカノは農業ギルドに行き除草剤や噴霧器、キュウリ用のネットなどを購入した。
あと、必要になるかもしれないので諸々人間用の薬も購入する。
何故か、ライドも着いてきた。
普段入らない農業ギルドの建物の中を、あちこち物珍しそうに眺めていた。
かと思えば、
「このイチゴのムースうっまー!!
え、このミートパイも美味っ!!」
こちらでも併設されている食堂で出されているメニューを食べて舌鼓をうっていた。
「こんな美味いの初めて食べた」
「そのミートパイの肉は、品種改良した豆を使って作ったやつらしいぞ。
だから、純粋な肉じゃない」
「うっそ」
「荒れた土地でも育って、虫や病気に強く、栄養価が高い品種だ。
まぁ、まだまだ改良中らしいけど。
ある程度形になったら、お試しメニューで農業ギルドの食堂とかでこうして出してるんだよ。
好評だと、あちこちのイベントで屋台出して売ったりしてる」
「へ、へぇ、知らなかった」
そうして時間は過ぎていく。
「あっちには銀貨一枚払うと、国の内外問わず集められた酒が試飲できるブースがある。
まぁ、試飲だからお猪口で少しずつ色々飲めるようになってる」
「え、それって」
「そ、基本飲み放題。
なんなら、おツマミもある。
こっちも有料だけど」
ちなみに試飲できる酒は、売店で購入できる。
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