第15話

ウカノが通されたのは、この冒険者ギルドのギルドマスターがいる部屋だった。

執務室である。

ギルドマスターは、受付嬢から話を聞き、ウカノを見た。

顎髭が特徴的な大柄な男性だ。


「ダークドラゴンを倒した、ねぇ?」


ジロジロと値踏みするかのような視線を向けられる。

正直に話した方がいいと判断して、ウカノは嘘をついた理由も含めて洗いざらい説明した。

説明が終わると、ギルドマスターから質問が飛んでくる。


「どこで、そんな強さを手に入れた?」


「……さぁ?

家の手伝いしかしたことないので、なんとも」


「ふざけてるのか?」


「本当のことです。

話すべきことは話しました。

嘘だと思うなら、そう思ってもらって結構です」


「…………」


「お話はしました。

もういいですね?

それじゃ、失礼します」


ウカノはさっさと部屋を出ていこうとする。

しかし、呼び止められた。


「まぁ、待て。

農業ギルドの方だとどうか知らんが、冒険者ギルドは基本実力主義なんだ」


「はあ?」


ギルドマスターの言葉の意味をはかりかねて、ウカノはそう返す。


「とりあえず、お前の実力を知りたい。

結果によっては、一気にAランクになることも可能だ。

受けられる依頼も増える」


「興味ありません」


そもそも冒険者として活躍したいとか、そんなことウカノは思っていなかった。

だから、Aランク冒険者になれるかもしれないと言われても、興味すらない。


「じゃあなんで、冒険者として登録してる?」


「身分証の予備としてカードが欲しかっただけです」


「馬鹿にしてるのか?」


「嘘を言っても仕方ないじゃないですか」


睨まれるが、ウカノはどうでもいいと思っていた。

あくまで身分証の予備が欲しかったのはその通りなのだから。

もしもこの態度が原因で、冒険者資格を剥奪されるならそれはそれで気にならない。

元々、冒険者として登録をするよう薦めてきたのはエリだった。

ウカノとしては、軽い気持ちでそれに従っただけだ。


「……冒険者活動は遊びじゃないんだ」


「知ってますよ。

稼がなくちゃいけませんもんね」


淡々と返した直後、ウカノの声が低くなった。


「だから、稼ぎにならない農家や村の依頼は、どれだけ出しても無視し続けられてきた。

いつだって、切り捨てられるのは弱い方ですからね」


声は低いけれど、その顔は笑顔だ。


「なにが言いたい?」


一気に剣呑な空気になる。

ウカノが、さらに言葉を続けようとした時、バタバタと部屋に駆け込んで来る者がいた。

ギルド職員だった。


「大変です!!」


部屋にいた三人の視線が、その職員へ注がれる。


「今すぐ、受付に来てください!!」


何かトラブルが起きたのはすぐに察せられた。

ギルドマスターと受付嬢は、部屋を飛び出していく。

それに職員が続いた。

最後に、ウカノが部屋を出る。

受付に行くと、さっきとは打って変わって騒がしかった。

受付台を背もたれに、カタカタと震えている人間がいた。

老婆と青年だった。

受付嬢達が話を聞いている。


「西にある街から来たらしいッすよ、あの二人。

なんでも、乗り合わせた馬車が、途中で盗賊に襲われたとか。

おばあさんは、孫娘を。

あっちのお兄さんは、婚約者をそれぞれ奪われたらしいっす。

二人は命からがら、逃げてきたとか」


そう説明してきたのは、ライドだった。


「……衛兵に通報は?」


「お役所は動くの遅いっすからねぇ。

それに、王都が襲われた訳でも貴族の馬車が襲われたわけでもないし。

それより、冒険者の方がフットワーク軽いっすから」


「なるほど、それで冒険者ギルドに駆け込んできた、と」


「賞金首を専門に討伐する冒険者もいるっすから」


「馬車を襲った盗賊は有名な賞金首なのか?」


「そこを今、受付さん達が詳しく聞いているところっす」


ちらり、とウカノはその場を見回した。

何人か、目を輝かせている冒険者がいた。

おそらくその者達が、賞金首を狩っている冒険者なのだろう。


「ふーん」


ウカノは適当に返して、入口へ歩いていく。

ライドがその背を慌てて追いかける。


「え、ちょちょ、どこ行くんすか!?」


「どこって、帰るんだけど」


「帰るって、この状況で?!」


「賞金首の討伐依頼受けられるのって、Cランクからじゃなかったっけ?

俺、Dランクだから」


「え、えぇ~??

ダークドラゴン倒したのに?

さっきギルマスと話してたのも、その功績を認められての昇級の話だったんじゃ」


想像力豊かな金髪だな、と思いながらウカノはパタパタ手を振った。


「違う違う」


「それだけ強いんだから、この依頼を受けてもいいんじゃ」


「まだ依頼出されてないでしょ」


「そうですけどぉ」


「それに、俺、やることあるし」


「やること?」


「除草剤と噴霧器買うの忘れてたから、買わないと」


「……はい??」


「あとキュウリも植えたいから、ネットも用意しなきゃな」


燻製も作りたいので、それ用のチップも買って帰らなければならないのだ。

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