第13話
冒険者ランクD。
それがウカノの冒険者ランクである。
下から二番目だ。
スキル無しで、仕留めた魔物の解体が出来るということが考慮されてのランクである。
仕留めたり、討伐したり等は出来るものは多いが。
けれど、綺麗に買い取ってもらえるレベルで解体出来る者は少ないのだ。
素材へと予め解体、加工してあればただ魔物の死体を持ち込むより、少しだけ買取価格が上がる。
解体分の手間賃が上乗せされるのだ。
ステータス表示で、ウカノの戦闘能力は示されているが、職業が農民ということで、彼は弱いというレッテルを貼られてしまった。
先入観というやつである。
けれど、冒険者ギルドにはカードの更新以外で来ることは無いだろうとウカノは考えていたので、何の問題もなかった。
はずだった。
謹慎生活三日目。
ウカノはとある森にいた。
森に来るまでの流れはこうだ。
早朝。
新しくピーマン、トマト、ナス用の畝を鍬片手に作っていたところ、農業ギルドが飼育している伝書鳩がエリからの手紙を運んで来たのだ。
今は通信魔法が主流なので、おや珍しい、と思いながらウカノは鳩から手紙を受け取って開いた。
ウカノが手紙を開くのを確認すると、鳩は飛び去ってしまう。
手紙の中身は、今度はとある森にて邪龍の群れが確認されたというものだった。
異常発生の知らせである。
王都からはかなり離れているものの、こういった異常発生が起こった場合、七割から八割の確率で王都近くの森で、群れからハグれた個体が見つかることがある。
そうなると、どうなるか?
本来そこには居ないはずの強力な魔物の出現、という現象が起きてしまう。
そして、その個体と新人あるいは中堅冒険者がクエスト中に遭遇し、戦うことになるのだ。
そして、死ぬ。
勝つこともある。
生き残れる。
けれど、高確率で死ぬのだ。
なにも冒険者に限ったことではない。
たまたま通りがかった行商人。
薬草採取依頼を出すより自分で取りに行った方が早いと判断し、取りにいった町民。
旅人が被害にあうことだって珍しくない。
そんな犠牲を出さないために、農業ギルドは特有のネットワークを形成、連携して対処している。
それが、今回だった。
ウカノはその対処のため、招集されたのだった。
群れの討伐ではなく、ハグれた個体がいないかの確認。
もし見つけたのなら、駆除。
それがウカノの仕事だった。
ちなみに、ウカノ一人で仕事をしなければならない。
たまたま他の農民は、田植えやら種まきやらで忙しいので、集まらなかったのだ。
王都にいて、すぐ動けるのがウカノだったのである。
「さて、と」
農作業用の真っ赤なツナギ姿で、ウカノは森に入っていく。
その背には、駆除剤や解体用のナイフが入った袋。
武器は無い。
戦闘になると、子供の頃からよく壊してしまっていたので持たせて貰えなくなったのだ。
しばらくウロウロと歩き回っていると、頭上を大きな影が過ぎった。
見上げる。
真っ黒な巨体が飛んでいくのが見えた。
邪龍と呼ばれるドラゴン。
正式名称、ダークドラゴンだ。
次に、咆哮があがる。
直後、そのドラゴンへと巨大な火の玉が飛んでいくのが見えた。
そして、空中で爆発、炎上する。
また、ダークドラゴンの咆哮があがる。
「わお」
魔法の火の玉だった。
誰かが攻撃を仕掛けているらしい。
ほぼ間違いなく、それは冒険者だろう。
たまたま遭遇したのか、それとも討伐依頼で攻撃したのか。
予想できるのはどちらかだ。
魔法攻撃の強さから、かなりの手練だと思われる。
おそらく中堅か、もしくはベテランか。
ベテランならウカノの出る幕は無い。
同じ獲物を狙って、トラブルになるのは避けたい。
ウカノは少し考えようとして、頭上をドラゴンのブレスが通り過ぎるのをみた。
同時に、悲鳴の様なものが聞こえてきたので、
「劣勢か」
そう判断し、呟く。
それから、足元にあった石ころを適当に拾って、木に登る。
ダークドラゴンが怒り狂って、ブレスを一点へ吐き出している。
よく見ると、様々な魔法攻撃が地上から放たれていたが、ダークドラゴンには効いていなかった。
ウカノは、
「風向き、よし。
方向、よし。
狙い、よし」
一つ一つ確認をして、先程拾った石ころを思い切りダークドラゴンに向かって、投げた。
その石ころは、ダークドラゴンの右目にあたり、潰す。
ダークドラゴンの目から血が飛び散った。
「ギシャァァアア!!!??」
ダークドラゴンの悲鳴が上がった。
ウカノは、石ころを弄びながら、
「うーん、やっぱり威力が落ちるか。
ま、距離あるし仕方ないか」
なんて呟いて、殺気をダークドラゴンへ向けて放った。
すると、ダークドラゴンがウカノの位置をとらえる。
痛みで怒り狂って、こちらに向かってくる。
ウカノは、もう一方の目へ向かって、石ころを投げた。
先程と同じように、今度は左目にあたり、潰れる。
視界を奪われたダークドラゴンは、それでもスピードを落とさず、真っ直ぐウカノへと向かってきた。
「えーと、ナイフナイフっと」
ウカノは、カバンからナイフを取り出して、軽く振ってみせた。
それだけ、たったそれだけの動作だった。
次の瞬間、ダークドラゴンの首が落ちた。
続いて、体も落下する。
パキンっと、ナイフが折れた。
「はい、終わり終わりっと」
なんて言いながら、ドラゴンと交戦していたであろう冒険者達を探す。
地上から、
「こっちに落ちたぞ!!」
「いきなり、方向を変えた様に見えたけど、なんだったんだ??」
そんな声が聞こえてきた。
まだ距離は遠い。
ここで馬鹿正直に出ていったら、きっと獲物を横取りしたと思われてトラブルになりかねない。
「仕方ない、尻尾だけ貰っていこう」
壊れたナイフを片付ける。
それからウカノは地上へ降りると、さっさと予備のナイフでダークドラゴンの尻尾を切り取って、魔法袋におさめた。
そして、その場を後にしたのだった。
あとで燻製&ステーキにする予定だ。
エリにもおすそ分けする予定である。
幸いなことに、ほかにダークドラゴンの気配はなかったので、そのまま農業ギルドへ報告へ向かうことにした。
その直後にダークドラゴンと交戦していた冒険者達がやってきた。
残されたダークドラゴンの死体。
尻尾だけ切り落とされたそれを見て、彼らは首を傾げるのだった。
その場面を最初から最後まで見ている存在があった。
その存在は、農業ギルドへ走っていくウカノを見て、
「あいつか」
静かに呟いた。
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