第7話

***


「まさか、登校初日で謹慎になるとは、学園ってむずかしいなぁ」


翌日、ウカノは与えられた家で、独り朝食をとりながら呟いた。

エステル達はいない。

だから、本当に一人だった。

元々家で料理はしていたから、自炊は問題なかった。

家事もだ。

テーブルに並べた料理。

明らかに、十人分位はあろうかという、量のそれをみる。


「……一人分も難しい」


それをモソモソ食べる。

静かすぎる。

エステル達の所にいた頃は、あの三人に加え他の人もウカノの教育係として顔を付き合わせていた。

実家にいた頃は言わずもがな。

だから、ついつい、


「あ、これ美味い。

なー、フェイ、この味付け、俺って天才じゃね??」


年子で何だかんだ一番一緒にいた、二番目の弟の名前を口にした。


「……あ」


でも、ここには弟達はいない。

いつもなら、大皿に載ったオカズの取り合いで、喧嘩になって、テーブルがひっくり返ったりしてとても賑やかだ。

でもあの騒がしさは、今は欠片もなかった。


「…………」


静かすぎる食卓で、ウカノは食事を終えた。

残りは、昼食と夕食にまわそうと決める。


けれど、動かないことには腹は空かない。

さて、どうしたものかと悩む。

昨日のアールとの騒動。

あれでウカノは、一週間の謹慎を命じられてしまったのだ。

事情はどうあれ、ウカノがアールに暴力を振るったのは事実だ。

しかし、そもそもアールが先に手を出してきたのも事実だった。

クラスメイト達からの証言も加味された。

結局、喧嘩両成敗ということで二人揃って自宅謹慎となったのである。

家と違って、拳骨や納屋に閉じ込められたり、柱や大きな木に縄で括り付けられないだけ、学校の処置はとても優しかった。

少なくとも、ウカノにとっては優しすぎるくらいだ。

絶対ぶん殴られると思っていた。


昨日のことは、エステル達には報告済みだ。

布よりも薄い画面越しでのやりとりだった。

問題なのは、自宅謹慎なので学園に行けないことだろうか。

これでは、侵略者達について調べることが出来ない。

もしかしたら、こうしている間にも学園では有事が起きているかもしれない。

エステル達からは、追って指示するという返事が来ていた。

話を聞いた馬は、めちゃくちゃ楽しそうだった。


使った食器を片付ける。

それから軽く床を掃除した。


「すげぇ、籾殻も藁も砂もほとんど無い」


すぐに綺麗になってしまった。

思わず感動してしまう。

新築なだけある。

それから洗濯物を干したりと家事に勤しんでみた。

しかし、すぐに暇になってしまった。

なにせ、一人分だ。

母の手伝いで家事をした時のことを思い出す。

えぐい量の洗濯物を妹達と処理していたのだ。

段々と実家のことが心配になってきた。

はたして、諸々まわっているだろうか?

帰りたいが、帰れない。

二度と家の敷居を跨ぐな、と祖父からは怒鳴りつけられていた。

親父からもだ。

長男のくせに、金に目がくらみやがって、と。

弟たちも、きっとウカノの事を怒っているだろう。


「……ま、仕方ないよな」


次にウカノは庭へ出てみた。

まだ雑草などはほとんど生えていない。

殺風景な庭だった。

物干し竿以外、なにもない。


「枝豆でも植えようかな」


王都だから、農業ギルドがあるはずだ。

あそこで苗か種を買ってきて、家庭菜園でもしてみよう。

幸いなことに、ウカノは農業ギルドの会員だったりする。

農民は15歳になると自動的に登録させられるのだ。

実家を出たという負い目があったものの、ここは実家から離れた王都だ。

そして、そこの農業ギルドならまだ横のつながりは薄いと思われた。


思いたったが吉日だ。

ウカノは、財布を持って家を出た。

中には十分すぎるほどのお金が入っている。

生活費と小遣いだ。

それも多過ぎるほどだった。

エステル達からの連絡は、どこからでも受け取れる。

家については好きに使っていいと言われていた。

なんならアエリカからは、冗談交じりにそれこそ家庭菜園でもやってみたら、と言われていたのだ。


農業ギルドの場所は知っていた。

王都の地図も、頭に入っている。

だから迷うことなく、ウカノは目的地に向かうことができたのだった。

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