第3話 いざUPライブへ

初の配信から1日が経った頃、小雪経由で俺の元へ一つの連絡が来た。それは小雪が所属している事務所【UPライブ】へ来てほしいとの連絡だった。


ここで初めて小雪が事務所に所属しながらvtuberをやっている事を知り、妹が高校生ながらお給料をもらって仕事をしているのに、自分はまだ就職先が見つかっていないという現実を知り、若干ブルーな気持ちになりながらも、やはり妹とはいえ勝手に配信をしたのがダメだったのか、わからないがまず間違いなく注意されるんだろうなぁと、やはりこちらもあまり良い気にはなれなかった。


だが、ここで向こうに出向かなければ、俺のせいで小雪に迷惑がかかってしまうので、ここは素直に諦めて、行ける日時を向こうの事務所に返信しておいた。


そして当日、小雪にUPライブの事務所に行く事を伝えてから家を出た。


電車で1時間ほど揺られてついたのは、都会に聳え立つ立派な14階建てのビル。の隣にある4階建ての少し小さなビル。

中に入って確認すると、スタジオなどの施設も込みで、このビル丸ごと全部がUPライブの物らしい。

ヤッベェーと小物感丸出しの感想を抱きながら、受付に今日ここに呼ばれていると、話した所どこかに連絡をとったのち、エレベーターまで案内された。

そのまま最上階である4階の社長室へ行き、ノックをして中に入るとそこには、手前には接客用の椅子と机、奥には色々な資料の乗った机に20代後半ほどの見た目をした美人で、尚且つ高そうなスーツを見にまとった女性が、机を隔てた先にある社長椅子に座っていた。


「初めまして、本日呼ばれました天王寺小雪の兄の、天王寺阿久津です。」

「ああ、よろしく。私はここの社長をやっている牧野美咲だ。美咲でいいぞ。それと席はどこでもいいぞ」


そう言われた俺は、適当に一番近い席に座った。


「よろしくお願いします。美咲さん。それで本日は私にどの様なご用件があったのでしょうか?」

「それはだな……の前に少し待っててくれ」


そう言うと美咲は席を立ち、部屋に備え付けてあるコーヒーメーカーでコーヒーを作り始めた。


「阿久津君はコーヒーは大丈夫かな?」

「はい、ブラックでも大丈夫です」

「そうか」


出来上がったコーヒーを机に置くと、元の社長椅子にでは無く、阿久津の対面の位置へと腰掛けた。


「私は相手のご機嫌取りをする無駄話があまり好かんのでな、いきなりだが今日君をここに呼んだ要件を言おうと思う。」


やはりこの感じ、美咲さんは配信中の事故の事や、勝手にリリィとしてのチャンネルでの配信を怒っているんだ。


「はい」

「阿久津君、君うちに入らないか?」


あれ?


「……うちとは?」

「そのままの意味だよ。阿久津君、君をうちのUPライブのvtuberとして勧誘したいと考えている」


どう言う事だ?俺は今日怒られる事覚悟でここに来たはずなんだが、何故今俺は社長自らの手によって勧誘を受けているんだ?


これまた、自分の想像を超えたことが起きた事により、頭の中がぐちゃぐちゃになっていると、何かを察したのか美咲は話をはじめた。


「実はね、君のことはリリィからたまに話しを聞いていてね。それでちょうどこの前の配信を見て改めて感じたんだよ。君なら売れると」

「私がですか?」


それを聞いた途端、先程までの緊張が無くなりいつもの様な自信に満ち溢れ、自分こそはナンバーワンだと確信している顔へと変わった。


「やはり私が完璧だからですね」

「そうだね、今の君は我々の業界なら一考する程度には魅力的だよ。」

「?」

「ああ!それだよ、やはり私の目に狂いは無かった。阿久津君、君はこの業界で売れるには何が必要かわかるかい?」


……わからん。と言うかvtuberについてもよく知らないんだから、わかるわけがないだろ!だが、これを悟らせるわけにはいかない、せっかく巡り会えた就職の機会。絶対に逃せない。


「やはり私の様な完璧さですかね」

「インパクトとギャップだね。他にも色々なものも必要だけど、正直これさえあれば他が全部ダメでもやっていける。」

「実は私もそう思ってました。」

「この業界、普通の人間がいくら努力しても無駄な世界だ。それは何故かって?単純につまらないからさ。そりゃ色々考えて凡人なりに時間をかけてやったのなら、それなりの面白さにはなるだろう。だが、凡人が色々考えているうちに、他の奴らは凡人が思いついたものよりも面白い事を多くやる。その2つが並んだ時、人はどちらを見るか、一目瞭然だろ?そう答えは簡単誰もが見るのは後者だ。」

「なるほど」


わからん


「そしてその後者の中にも優劣がある。それを分けるのが第一印象にあるインパクトだ。」

「ほう」

「そして次に、見てて飽きない様なギャップが必要だ。誰しもが思うだろう、いきなり転校してきた奴がヤンキーなら、皆そいつに注目する。だがもしそいつが特に特徴の無い単なるヤンキーなら、そこで終わりだ。しかしそいつが、雨の中捨てられた子猫に傘をさしてあげたのなら?そいつは単なるヤンキーでは無くなり、少女漫画の様な王子様の1人になるだろう。」

「ふむふむ」


意味がわからん


「だから、私はモブでは無く主要キャラになり得る者たちを集めたんだ。」

「それでこの完璧な私に白羽の矢が立ったとそう言う事ですね。」

「ああ、それで答えはどうかな?勿論持ち帰ってかんが得てくれてもいいが、その場合君が主要キャラのままで居られるかはわからないがね」

「いえ、その辺りは安心してください。私の答えはここに来た時から決まっています。勿論受けさせていただきますよ」

「ははは、阿久津君ならそう言ってくれると信じてたよ。それじゃあ話が決まったらまた連絡するよ」

「わかりました。それではお返事待っています」


そう言うと阿久津は、出されたコーヒーを一口口に含み、その苦さに一瞬顔を青くさせながらも、一気に飲み干して、社長室を出た。


社長室を出た途端、阿久津は我慢をやめその場でガッツポーズを決めたり、勢い余ってシャドーボクシングし始めたりした。


そして勿論その様子は社長室の中まで聞こえており、美咲は阿久津が本当の意味で自分の想定通り、いやそれ以上の男だと知り、静かに笑みを浮かべた。


ーーあとがきーー


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