フリーの魔法士さん

瀬々良木 清

序章

 日和佐由紀恵は、27歳の魔法士である。

 ベリーショートの髪、とてもスリムな体。若々しく、アラサーには見えない。

 魔法士とは、魔法を使って様々な課題を解決する職業だ。由紀恵は国家魔法士の免許を取得しており、フリーランスで活動している。

 国家魔法士の免許があれば、魔法庁の役人や大手企業専属の魔法士としていい待遇で働けるのだが、由紀恵は自由気ままに行動できるフリーランスの道を選んだ。

 今では、魔法庁から斡旋される依頼をもとに、日本各地を旅しながら仕事をしている。


 少しだけ、この世界の魔法と、国家魔法士の話をしよう。

 魔法とは、この世界のごく少数の人間だけが使える特殊な能力で、その内容は様々である。魔法使いによって使える魔法は異なり、この世界にどれだけの魔法が存在するのか、未だ解明されていない。

 また、魔法使いにどうやったらなれるかは一切不明である。遺伝的なものだと推測されているが、科学的根拠はない。そもそも魔法というものに対する科学的根拠は一切ない。誰かが物理現象や化学反応などで魔法を立証しようとしたら、すぐさま魔法使いによって反例が出され、今に至るまで魔法が科学的に立証された事はない。

 世界各地の風習により、魔法は呪術とか陰陽術とかいろいろな呼び方をされてきたが、今では『魔法』という統一の呼び名で扱われている。

 時折、強力な魔法を持つ者が社会を揺るがすような大事件を起こしてきたことから、近代以降は国家が魔法使いを管理するのが主流だ。日本国の場合、魔法を使ってよいのは国家魔法士のみで、どこで何の魔法を使ったのか、厳格に管理されている。

 国家魔法士は、魔法庁の公認を受けた企業に勤めるか、魔法庁からの依頼を受けた場合のみ、魔法を使用できる。私的な魔法使用は、それ自体が犯罪である。だから、そのへんを歩いていて魔法を見かけることはない。

 国家魔法士の数は、明らかにされていないが日本国内で千人程度と言われており、とても貴重な存在である。

 そんな国家魔法士に仕事を依頼するには、魔法庁に魔法士派遣依頼を出す以外の方法はない。魔法庁が認めた案件のみ、魔法士が派遣される。

 インターネット受付が開始された現代では、毎日数千件の依頼が魔法庁に依頼される。末期がんを治してほしい、失踪した家族を探して欲しい、幼稚園のお友達と喧嘩したから代わりに謝ってほしい……などなど、依頼内容は限定されておらず、多岐にわたる。

 そんな中で、魔法庁がどのような基準で依頼を承認しているかは、全く不明である。

 情報化が進み、何でもオープンになった現代においても、魔法士の世界は未だに謎が多い。


 このように、この世界の魔法士はとても特別な存在だ。由紀恵は名門の魔法士の家系に生まれ、生まれた時から魔法士になる運命を背負い、周囲からの重圧に耐えながら生きてきた。

 しかし――

 由紀恵は、そんなことは一切気にせず、自由気ままに日本中を旅行しながら仕事ができる今の環境を、とても気に入っていた。

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