第8話 勧誘

 次の日に、迷宮ダンジョンで助けてくれた冒険者パーティーが、俺達を訪ねて来た。

 リーダーは、A級冒険者のケインさんだそうだ。

 そして、意外な事を言われた。


「クランへの加入ですか?」


 冒険者は、普通数人でパーティーを組む。そして、複数のパーティーを纏めているのがクランなんだそうだ。

 そうなると冒険者ギルドは、複数のクランとパーティーが揉め事を起こさないようにするための、街の公共機関だな。

 クランは、加入条件もあるらしい。

 俺達は、認められたのかな?


「うむ。私達が加入しているクランへの加入を勧めたい。クラン名は、『戦車の秒針クロノ・チャリオット』だ。そして、時期を見て独立したパーティーを結成して貰いたいと思っている」


 ハンナと顔を合わせる。

 ハンナは、首を左右に振った。

 スカウトされる理由は分からないんだろう。

 裏がありそうな話だよな……。


「そう警戒しないでくれ。有能そうな新人を見つけたのでスカウトしたいというだけさ。そのためには、まずクウンへ話を通さないといけない。ボスに会って貰い、合格を頂いたら、まず私のパーティーへの加入だ。君達の育成を手伝おう」


 ……話が上手過ぎないか?


「流石に、警戒してしまいますよ。俺達の実力なんて知らないだろうし……」


「実力か……。昨日、凄い量の素材を冒険者ギルドで売り払ったのだろう? レア素材も多数だったね。私も査定に呼ばれたのだけど、凄い切れ味の武器を持っていそうだね? 金属ゴーレムの核が真っ二つとか、聞いたことがないぞ?」


 あ~、それでか。


「攻撃型の俺と防御型のハンナが、陣地を構築して、迎撃しましたからね。正直、魔物の種類は分かりませんでした」


 ケインさんが笑う。


「それと、『銀狼の爪』だな。報復……ではないが、今二人で迷宮ダンジョンに入ったら、絡んで来るだろう」


 そうなるよね……。それは、俺も考えていた。

 ため息を一つ吐く。


「俺達の故郷にも迷宮ダンジョンがあります。まず、そこで腕を磨いてから他に移動しようと考えていました」


「ちょっと、ルーク?」


 俺は、ハンナを制止した。

 それを見た目の前の男性が、顎に手を当てた。


「ふむ……。慎重だね。そして、考えてもいたのか。まあいい。返事に時間はどれくらい欲しい?」


「……明日の同じ時間でどうでしょうか? 一日ハンナと話し合ってみます」


「承知した。では、明日同じ時間にね」


 こうして、握手して別れた。



「ちょっと、ルーク。どういうつもり?」


 勝手に決めたので、ハンナは怒っている。


「ここから先は、慎重に決めないとね。それと、シクラサに帰るのは、昨晩考えていたんだ」


「まず! パーティーのリーダーは、わ・た・し! 相談もなく勝手に決めないで!」


 ……違う理由で怒っていたんだな。


「それじゃあ、ハンナの意見を聞かせて」


「……」


 何も考えていなかったんだな。

 さて、どうしようか……。





 二人で話し合い、クランへの加入の方向で話が決まった。

 冒険者ギルドで話を聞いたのだけど、悪評の少ないクランだったのが決め手だ。

 なによりも、死者がほとんど出ていないと言うのが、俺にとって決め手になった。ちなみにハンナは良く分っていない。

 俺がしっかりしないとな。

 次の日に、加入の意志を伝えると、ケインさんは喜んでくれた。


「そうか、決めてくれたのか! ありがとう!」


 そして、クランの建物へ連れて行って貰った。ボスに会うためだ。

 とりあえず、今日は面接だと思う。

 そう思っていたのだけど……。


「ボスは、不在ですか……」


「すまないね。急用の様だ。私も行かないといけない事態みたいだ」


「何が起きたのですか?」


 ケインさんの表情が曇る。


「災害レベルの魔物の発生だね。場合により、街の全ての冒険者に声がかかる」


 良く分らないな。なんだ、災害レベルって……。

 ハンナを見ると、固まっていた。

 ハンナは理解しているのかな?


「とりあえず、日を置いてまた来ます」


「……うむ。だが、準備だけはしておいてくれ」


 俺に冒険者の準備など分からないんだけどな。ハンナに聞くか。

 こうして、クラウンを後にした。



「災害レベルか……」


 帰り道にハンナが呟いた。


「危ないの? A級冒険者が呼ばれるのだから、俺達には関係ないんじゃない?」


「そうとも言えないのよ。総動員の可能性もあるし……。もう、薬品とか値上がりしていそうね」


 総動員? 街の冒険者を?

 それで、一匹の魔物に当たるのか?

 どんな戦場なのか、想像できないな……。


「準備は何が必要なの?」


「私は、薬品の備蓄はあるから、盾を新調しようと思う。ルークは、刀の錆止めをお願いしたら?」


 あ……、そうだった。


「錆止めの方法を教えてくれないかな。食用油じゃ余り変わらなかったんだ」


「それじゃあ、私の行きつけの武器防具屋に行きましょう」


 資金もあるんだし、装備にお金をかけるのもいいはずだ。

 俺も、防具と言うか、服でも買おうと思う。

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