3・クレイジーな夜

「あなたもわたしもフルボッジウム♡」

「ひいッ!」

 急に耳元で囁かれ、蓮は飛び上がるほどに驚いた。

「悠、脅かさないでよ」

「ふふッ」

 悠の長い髪が蓮の首筋を撫でる。

 ドキリとしながら、かがんでノートパソコンを覗き込む悠を見上げると目が合った。ニコニコしながら蓮の前髪に触れる悠。

「やっぱり前髪おろすと幼くなるよね。可愛い」

「あ、ありがと」

 

「と、ところでさ」

 蓮は回転椅子ごと悠に向き直り、スマホを差し出しながら、

「なんか、社長がメンツに入っているんだけど?」

と例のグループについて話を振る。

「うん、社長映画好きって言ってたから」

と悠は蓮の膝の上に腰かけながら。

「いくの? 一緒に」

 蓮からスマホを取り上げ、画面を覗き込む悠の腰に腕を巻きつけながら問えば、

「社長、ワゴン車だし。全員乗れるでしょ?」

と彼女。

 現地まで行けるかどうかの話しなのか? と思いつつ、彼女の胸に顔を埋める蓮。

「まあ、現地集合でもいいしね!」

 彼女はやはり人数の話しをしながら、蓮の髪を撫でた。


「みんなフルボッジウムになったらどうするの?」

と蓮。

「それは自己責任で。わたしにはどうにもできないし」

 そりゃそうだなと思いつつ、彼女の手元に再び視線を走らせると、

『ちょっと、池内くん?! 既読無視?!』

という社長のメッセージが増えていた。

 それを見た悠が笑っている。

「蓮、何か返さないの?」

「何も返しようがなくない?」

 彼女の言葉に眉を寄せ、画面を見つめた。

「んー。社長はドMだから放置プレイもオツってことで」

「え?」

「この予告版を投下しておこうよ」

「それは、ちょっと……」

 止めても無駄なのは百も承知だが、一応悠の暴挙を止めにかかる蓮。


「ほら、みんなだって予備知識は大切だし?」

「あ、ちょ……悠。それ、俺のスマホ……」

 こうして無事に予告版動画はグループチャットに投下された。

 頭を抱える蓮。悠は笑っている。


────数分後。

『え、これを社長と観に行くんですか?』

と蒼姫。

『これはまた、息子暴走の予感』

と三多。

 三多はどちらかというと下ネタ耐性強である。

『え? なんなのこの映画?』

と社長。

『皆さん集合時間には遅れないように!』

と悠。

 こうして再び映画鑑賞は強行されるようだ。


 初めの頃こそ下ネタ耐性のない悠だったが、いつの間にかすっかり染まっている。いいことなのか悪いことなのか分からないが、悠が楽しいなら良いかと思う蓮。

「悠、俺にも構って」

「なあに? 今日は甘えん坊さん?」

 ”可愛い!”とむぎゅっと抱きしめられ、その柔らかい感触に蓮は鼻血を吹きそうになったのだった。

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