5・ライバルは既に登場していた件

「いこっか、蓮」

 悠が何事もなかったかのように彼の腕を取ると、我に返った蓮が気まずそうな顔をした。

「美味しいもの食べて、早くイチャイチャしようよ」

「う、うん」

 まずは部屋に行こうと思い、フロントでチェックを済ます。

 カッコつかないと思ったのか、彼が自分がと出ようとしたのを悠は制した。


 日本はまだまだ男女不平等。しかし法律上は平等なはず。

 男に任せきりというのは、見た目としてはリードされているように見えるのかかもしれないが、悠はいつも対等でいたかった。

 恋愛は……パートナーとは対等な関係を言うのだと思うから。


 シンプルだが、お洒落なシティホテル。

 余計なものがない分、広く感じる室内。

 一泊するだけなら不自由はなさそうだ。


「あ、あのさ。悠」

「うん?」

 荷物を置き、一旦休憩と言わんばかりにベッドへ腰かけた悠の前に立つ蓮。

「あ、やっぱり元カノが良いから別れるとかは無しだよ? 別れてなんてあげない」

 ぷくっと膨れて見せれば、

「そんなことは言わない」

と抱きしめられる。


 立ったままの蓮の腹の辺りに顔を埋めた悠は、彼の腰に腕を回す。

 とてもいい匂いがする。


「ごめんね」

と蓮。

 なんのことだろうと思っていると、

「きっと悠も同じだったよね」

と言う。

 髪を撫でる大きな手。その腕に包まれるといつでも安心した。

 確かに初めの頃は『顔は好みだが、どこかオカシイ』と思ってもいたが。


 悠のことが好きすぎて、テンパるのも。

 三多と蒼姫の助言を真に受けてトチ狂った行動に出るのも。

 いつの間にか、全部愛しいと思っている。

 今更、元カノに奪われたくなんてない。


「俺、もっと悠に気持ち伝える努力するから。ずっと傍にいてよ」

「うん」

「いつか結婚してくれる?」

「する」

 ぎゅうぎゅう抱きしめていると、

「ちょっと痛いんだけど」

と言われてしまう。


「にしても、だよ」

「うん?」

 隣に腰かけた蓮にしだれかかりながら、悠は不満を漏らす。

「あの人にも見せたの? 蓮のその……」

「見せた?」

 ”甘えん坊なところとか”と続けようとしたところ、

「あ、いや……その」

と勝手に勘違いして顔を覆う蓮。


──いやいや、下半身の話しじゃないから!


「だって脱がなきゃできないし?」

 なんの言い訳をしているんだ、この人はと心の中でツッコミを入れる悠。

 だが面白いので、そのまま話に乗る。

「あっちは別に良いんだけれど、初めてってどうだったの?」

「え?! そういうの興味あるの?」

 驚く蓮。

 男性が女性の経験談を聞きたがることはあるが、男性の初めてを聞きたがるのは意外だったのかもしれない。

「蓮のが」

「うーん……違うところにいれようとしてキレられたことくらいかな……」

 悠は蓮の経験談に思わず吹いたのだった。


──まあ、蓮は純情そうだしねえ。

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