Chapter.21 都会


私は本当に当てもなく東京の新宿に向かった。今思えば若さだったのだろうと思う。何も怖いものなんてなかった。


適当にナンパされた人の家に行って何泊かさせてもらったりマックで夜を過ごしたり公園で野宿した事もあった。でも帰るよりマシ。そう自分に言い聞かせた。


そんなある日スカウトと名乗る男に声をかけられた。当時17歳だった私が当然働ける店などなく紹介を受けてとある雑居ビルに連れて行かれた。


本名かは知らないが佐藤さんと言う人が面倒を見てくれると言う。事情を話すと部屋に住まわす代わりに援デリ(援助交際をし身体を売り仲介者と折半するシステムの事)をしてくれないかと言われ私は軽くいいよ、と答える。


飛ばしの携帯も貸してくれた。何台もある携帯で募集を募る。暫くしたら釣れたので仕事に向かうことにした。


待ち合わせ場所まで向かいながら当時付き合っていた彼氏の事を思い出してた。

純粋に好きだった。でももうきっと会う事もないんだろうな。


待ち合わせ場所には本当に男がいた。普通のサラリーマンみたいで安心した。


『あ…まりあです』


適当につけた名前。一瞬自分の名前を忘れそうになって笑いそうになった。


『まりあちゃん可愛いね、行こうか』


ホテルに入って〝事〟が始まって男の息が耳にかかった時私は思った。


あぁ、本当に売女になったんだ、私。

お母さん私本当に売女になっちゃったよ。


どうしてくれるの。

私の人生返してよ。




『緊張しちゃってた?かわいかったよ』


男が事を終えていそいそと着替えながら言った。


『うん…』


『じゃ約束のね。』


財布を取り出し条件だった2万円をくれた。

そう、私の価値は2万円。分かりやすくってよかった。


安くも高くもない。

それが私の値段、価値。


『ありがとう』


『また遊ぼうね』


ホテルから出て私はぼーっと星の見えない空を仰いだ。

東京の空は本当に空に星が見えないんだなぁ

そんな事を呑気に思いながらタバコに火を付けた。


茨城は田舎だから星がよく見えた。

何気なかった光景も必ずどこにでもあるものじゃないんだ。


沢山の人が行き交うこの街。

皆どこに向かっているんだろう。

帰る家はちゃんとあるんだろうか。


いいな。それだけあればいいのになぁ


私はその後佐藤さんの家に戻り折半で1万円をもらった。


『頑張ったね、どう?出来そう?』


『うん出来そう』


最中は自分を殺していればいい。

叫びたくて逃げたい気持ちを押し殺せばいい。

昔からそれだけは特技だったし辛くはなかった。


その後も3本位客を取ってその日は終わりにした。

何より安心して眠れる場所があるって言うのは気持ちが楽だ。


家出少女は警察に見つかれば全てが終わる。

だからビクビクしてた。犯罪者ってこんな気持ちで逃げてるのかな


私も大して変わらないか

そんな事を思いながら眠りについた。


翌日以降もそんな生活が続いた。

今思えば彼は本職の人だったのだと思う。

家紋なんかも飾ってあったし。


でも一切手出しして来なかったし怖い事もされなかった。

無理に仕事に行かせる事とかもなく、

よく食事にも連れて行ってくれたしとてもよくしてくれた。


お金もそこそこ稼げるようになっていたしもうこのままでもいいかもなぁ

なんて思い始めていた。



私は雑居ビルの屋上でタバコをふかしながら

航空障害灯の点滅を見てるのが好きだった。


茨城にはない光景だったし何より綺麗に思えた。


そして毎日連絡のくる彼氏の颯太を思った。

大きな心残りといえば彼の事だった。


同い年だったけど当時からしたら大人な人だった。

でもどこか少年のようなあどけなさがあった。


友達は売女であっても繋がって居られるかもしれないけど

彼氏はそんなわけにはいかないだろう。


つまり、もう二度と元には戻れないのだ。



本当に大切にしてくれていたし毎日楽しかった。

よくバイクの後ろに乗っけてもらって色んなところへ行った。




でも、もう二度と戻れないのだ。








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