第94話 櫛

君の髪が好きだった。艶やかでさらさらと風に靡く長い髪。


木の櫛でとかしているのを見たことがある。確か椿の油を櫛に塗るんだとか。


だが今日、君が使っていたのは安物のプラ用品の櫛。しかも色合いはどう見ても君の趣味ではない。


女子たちの会話からそれはやはりプレゼントだったと知った。それも男からの。


もらったものを大事にするのはいいことだ。だけど俺は君の美しい髪が見られなくなるのが嫌だった。


俺もまた彼女に櫛をプレゼントした。ちゃんとした油を塗って使うものを。


だけど君は安物の櫛を使う。そうなる気はしていた。


金を無駄にしたとは思わない。俺の好きが少しずつ姿を消していた。

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