第68話 衣替え

衣替えの季節になった。俺は早々にジャケットを薄くしていた。


君はなかなか衣替えをしなかった。もこもこの上着は可愛らしいが、見ていて暑苦しい。


ようやく衣替えをした君はどこか寂しそうだった。風の噂で知ったが、あのもこもこは元カレからのプレゼントだったらしい。


それならそうと言ってくれれば俺が春先用の服をプレゼントしたのに。君は着てくれるだろうか。


君の元カレを俺は知らない。いつ別れたのかも、どのくらいの長さ付き合っていたのかも。


ただ君にそんなに思われていることだけ知っている。君は俺に元カレの話をしないのは好意があるからだと思うのは希望的観測か。


衣替えはするものだろうに。なぜ君の心に彼が留まっているのだろう。


季節が巡るたびに君を拐かす。そこにいない人間に俺は嫉妬していた。

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