第52話 ペトリコール

雨の匂いがすると君が言った。俺にはそれが分からない。


田舎や自然の近くで生まれた人には分かるという。しばらくすると本当に雨が降り始めた。


君は都会に憧れて田舎からうちの学校までやってきた。俺には都会の何がいいのかわからない。


便利だけどそれだけで、欲しいものなんてネットで注文すればいい。俺からすれば田舎の方がよっぽど魅力的だ。


都会は失うものが多い。俺は君と同じ感覚さえ持っていない。


雨が降り始めれば、俺も匂いを感じることができる。ほんの少しカビ臭いペトリコール。


君が好きな匂いだと言う。どこまでも俺と君は感性が違くて。


互いにないものを持っている。だけど俺たちじゃ埋まらない隙間がある。


付き合おうとは互いに口にしなかった。長続きしないことが目に見えてる恋愛よりも、ずっと友達でいることを選んだ。


これでよかったといつだって自分に言い聞かせる。俺はただ、雨が止むのを待っていた。




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