プリン

柏堂一(かやんどうはじめ)

「ゆるしてくれないの?」


「ゆるさない!」


「どうしても?」


「どうしても!」


 彼女の問いに僕は語気を荒げて答えた。


 後で食べるのを楽しみにして冷蔵庫に入れておいたプリンを彼女が食べてしまったのだ。名前まで書いておいたのに。


「心の狭い男ね」


 他のことなら何だって許せる。僕は彼女を愛しているから。だけどプリンだけは別だ。


 ふて腐れた僕を見て彼女はため息をついた。


「わかったわ。今からプリンを買ってきてあげる」


 そう言うと彼女は部屋から出て行った。それは僕が最後に見た彼女の姿だった。


 こうして5年続いた僕たちの同棲生活は終わりを告げた。プリンと彼女を同時に失い、僕の心にはぽっかりと穴が開いた。


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