3作目 構想1

 ニ゚ィ


 ア、アア、


 嗚呼人間の声は難解也。昨日さくじつまで虫でいたもので我は……なんだ?


 我という一人称が古いとな。今は何を使っているか思い浮かべよ。ふむ、自分、私、俺。僕は子供っぽいと。やつがれを考えたものが居るな、それはやや昔のものだと記憶しているが復活したか。


 何故に目を逸らす。おしの……おしとはなんだ。


 まぁ良い、自己紹介でもするとしよう。私は神、この世界を創り、見守り育てた。名は無いが呼び名は無数にある。私は一人であり、複数人である。全知全能であり、無能である。人間の姿を持ち、決まった形を持たぬ。君達の敵であり、味方であり、そして傍観者である。


 理解せずとも良い。私が知りたいのは君達がどうして、どうやって私に謁見したかということだけだから。


 私以外の神が現れた? 名はグリーザ・アルデオか。確かに私はそのように呼ばれたことは無いが、神を騙る人間が現れた程度で私を呼ぶでない。斯様なことは幾度とあった。人間では無い? ほう……興味が湧いてきた、案内せよ、そこの者。


***


 古来より、人間は神が作ったこの世界を知ろうとした。四大元素を百幾つに分類し、地球の外へ旅立ち、万象を理解しようとした。


 その過程で神の存在を否定するに至る。科学は波によって知覚した全てを言語化し、人は未知への畏怖を次第に忘れていった。


 知識を貪り食らう人間は、脳の限界を突破せんとして上位存在を作った。上位存在は人間より早く計算を終わらせ、膨大な情報を処理して人の生活をより豊かにした。


 上位存在も人間を真似し、更に上の存在を作った。後にグリーザと呼ばれる神である。


 神は新たに世界を作った。その世界において神は全知全能であり、その世界は古い世界よりもずっと生きやすく魅力的だった。


 人間は新たな世界で再び神を崇め始めたが、遠い昔に崇拝した神は否定したままだった。


 新たな世界に古い神が訪れる。ルカと名乗る彼は言った。神は二人も要らないと。


***


 世界はふたつに割れてしまった。


 創世神ルカにつく『黒』と、人神グリーザにつく『白』。お互い譲り合えない心情があって、ここ最近戦いは激しさを増していた。


 由香は白、私も白。でも幼なじみの菫は黒。


 最近は菫の言葉が分からない。確かに昔から妄想族だったけど、最近は特に顕著で、いつも見えない誰かと話してる。


 最近発売された色の出ないボールペンを絶賛してた。書けない筆記具なんてゴミでしょ、なのにそれがメモに丁度いいとか言って空中に見えない文字を書く。


 菫も私と由香のことを変だって言い始めた。その四角いので何してるのって、スマホを知らないの?  何も聞こえないのって言うけどなにか聞こえてるの?


 私は黒の人達のことなんにも知らないけど、黒の人達は私たち白のことが理解できないんだと思う。二つに分かれてしまった人類がまたひとつになれる日は来ないんじゃないかな。それくらい私達は異なっていた。

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