ゼン・ジン・ソッ・コー! 卓球ダブルス青春殺伐高校男児裏腹業腹仮面舞踏会
雨蕗空何(あまぶき・くうか)
第1話 世界で一番大嫌い
ずっと、言いたくてたまらなかった。
いつか、本当に言ってしまうのではないだろうか。
――本当は、キミのことが、世界で一番大嫌いだった。
言ってしまったら、どうなるのだろう。
周りの期待は、これまでの関係は、どうなってしまうのだろう。
卓球ダブルスの魔境へと。
◆
青空に反響させるかのような大声量で、
「さぁさぁ諸君! 見よこの青空! 実にすがすがしい卓球日和のいい天気じゃあないか!
これぞまさに天よりの采配! 僕たち
「天気は対戦相手もおんなじ条件じゃあ……あと卓球は屋内競技だし……」
その顔を向けた先、
ぞろりと長い前髪で、目が半分隠れている。
「俺はちょっと曇ってるくらいの方が、暑くなくていい……
というかさ、
「なぁにを言うんだ
それに僕らは一年ながらダブルス代表! 高校の看板を背負って戦うのだから、語って悪いことはなかろう!」
はぁっはっはと高笑いして、
部活の先輩が微笑ましげな目を向けた。
「おまえら本当に仲いいよな。中学からダブルス組んでたんだっけ」
「ええそれはもう! 僕と
こんなにもキャラクターの違う人間が熱い友情を築けるという証明として、みんなの手本としてやっていく所存であります!」
周りの人間は気づかない。肩に回した
そんな彼らが、スポーツセンターに入ろうとしたとき。
彼らの耳に、声が届いた。
「くすくす。ねぇ
「くすくす。ああ
男がいる。二人。他校の制服。
異様な雰囲気であった。
双子なのだろう。瓜二つの顔をしている。
二人とも、髪の毛や眉を完全に剃り落としている。
そしてそろって上半身をコンクリートの地面につけ、足を反って持ち上げる、いわゆるシャチホコのポーズをしている。
体の向きはあさっての方向で、顔だけが仮面のように微笑して
そして上半身は、よく見ればコンクリートに直接接地してはいない。ピンポン玉。それをいくつか体の下に敷き詰めている。
たくみな体重移動で、ピンポン玉は潰れない。
「おかしいな?
もしやびっくり人間コンテストの日程と、間違えていたか?」
「卓球選手だよ彼ら……」
「
双子のダブルス代表で、体の柔らかさを活かした異次元の卓球技術を魅せるトリッキー選手。
その幻惑的な技術と瓜二つの人間を同時に相手するというビジュアルプレッシャーにより、対戦相手の精神を摩耗させ、幾度となく狂乱におちいらせたという魔性の選手……」
それから
「ていうか、予定を覚え間違えたりとかしないでしょ優等生が……しらじらしい……」
ぴきり。
二人の正面で、半田兄弟はくすくすと笑った。
「きみたちと戦うの、楽しみだよ。ぼくたちを相手して、どんなふうに踊ってくれるか」
「狂乱するのかな? それとも恐怖するのかな?
間近で楽しみたくてうずうずしているよ」
半田兄弟はシャチホコの姿勢のまま、地面に敷いたピンポン玉を転がして、スポーツセンターの中へと吸い込まれていった。
最後まで顔は、
「なかなか個性的な手合いだったが、まあ関係なかろう。僕らのやることは同じだ」
「そうだね……どんな相手でも、俺たちのやることは、変わらない……」
先輩がにっかと笑って二人の肩を叩いた。
「おーう、その意気だぜ! 誰が相手でも目指すは優勝だ!」
「もちろんですとも先輩! 見ててください僕らのダブルス! 必ずやこの
その正反対な表情の裏に、どちらも殺気のような闘志をたたえて。
――相手が誰でも関係ない。
だって力を一番見せつけたい相手は、隣のこの男なんだから。
ぱきり。
誰かの荷物のピンポン玉が、ひとりでにひび割れた。
殺気であった。
その場に満ちた殺気がピンポン玉を割った。
それだけの話だ。
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