7月14日

 いつものように、君の側に座っていたんだ。

 そのとき、「ピー」という、高い音が流れてきて。君の心音を表していた規則正しい音が、一つの音に変わってしまったんだ。

 担当医がすっ飛んできて。親御さんに連絡を入れた。

「今夜が山場かもしれない。もし、これを超えられなかったら……」

 目の前が真っ暗になった。

 いやだ。こわい。こわい。失いたくない。君と過ごしていたい。いつまでも……!


 僕は家に帰らず、病院に泊まることにした。

 明日来て「君が死にました」なんて、ごめんだから。

 ただただ君の手を握って、神様に祈ることしかできない。

「お願いします。彼女を、僕から奪わないでください。お願いします……!」

 嗚呼。僕はなんて無知で無力なんだろう。


「ねえ。ねえ」

 午前1時。君が目を開けた。

「待っててね。今、お医者さんを呼ぶから」

 ナースコールを押す_____はずだったんだ。僕の手は、君に止められていた。

「押さないで」

 君の真剣な目に、僕は動くことができなかった。

「今は、何時……?」

「7月14日の……正確には7月15日の午前1時だよ」

「そっか。丁度、1年だね……」

 君は、独り言を、ぼやぼやといっていた。

「どうしたの? ずいぶんとおしゃべりだね」

「……だって、たぶん、もう、最期だから」

 最期。

 君からのその言葉に、涙がこぼれそうになった。

「ねえ。わらって……?」

 涙を目にいっぱい溜まって、君の顔がうまく見えなくなった。

 けれど僕は、君の最期であろう要求に精一杯応えたんだ。

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