第27話 魔族救出作戦⑤

「ミィ。俺の番い。こんな臭くて汚いところに美しいお前を押し込んだのはその醜い豚野郎か?」


「モルガーン様、お口が悪うございますよ?どうか気をお静めになって。ほら、モルガーン様の魔力にあてられて、人間が泡を吹いております。」


 ミィが悲しげに顔を伏せる。確かに先程汚く絶叫していた男は口から泡を吹いて地面に膝をついている。


「そんな男を庇うな、ミィ。そいつを細切れにして殺してやりたくなる。」


「いけませんよ、私の愛しい人。」


「俺の大事な番いを傷つけたんだ。生かしておけん。」


「モルガーン。落ち着くのです。」


 静かなはずのミィの声が地下牢中に響き渡る。それを聞いて怒りで魔力を限界まで高めていたモルガーンは、深いため息をついて魔力を弱めた。


「本当に、お前には敵わんな美しい女神よ。」


「ありがとう。わたくしの一等星。」





「そろそろいいかなぁ。」


 そんな2人のやり取りに入っていったのはライヤードだった。


「はぁー!アツアツすぎてみてらんないよ!目に毒だよ、ったく!。ミィ、遅くなって悪かった。」


「いえ、ライヤード様。先程言った通り時間通りでございます。」


「優しいな、君は。」


「すべては博愛の下に。」


 ミィがにっこりと笑った。それを見てライヤードも微笑むと、彼女が捕えられている鎖に歩み寄る。


「封印を解く。少し痛いかもしれないが我慢してくれるか?」


「もちろん。」

 

 ライヤードが鎖に手を当てる。


「ぐうっ!!!」


「ライヤードさん!!!」


 すると、鎖からとてつもない電撃が走った。それはライヤードを遅い、その体から煙が上がる。


「ライヤードさん!大丈夫なんですか!」


 顔を青くした亜月が駆け寄ろうとするも、モルガーンに止められる。


「やめとけ。ただの人間なら近づいただけで死んじまうぞ。」


「そんな!!」


 ライヤードさんだって死んでしまうんじゃないか。バチバチととんでもない音を出しながら電撃はライヤードの体を蝕んでいる。そして、徐々にライヤードの表情も苦しいそれに変わってきていた。


(このままじゃ、ライヤードさんが…死んじゃう?)


 ゾッと身体中の血液が冷え切ったように感じた。御門君が聖女に心変わりした時の心の痛みとは比べ物にならないほどの苦痛だった。ライヤードを失うことが怖い。彼が死んでしまうことを想像するだけで涙が出てきてしまう。


「い、嫌!やだ!やだぁ!」


「お、おい!どうした!」


「ライヤードさん!やだぁ!死なないで!嫌ぁ!!!」




 

 人一倍自分が愛に飢えているのは分かっていた。好きになってくれるのなら誰でもいい。愛をくれるなら誰でもいい。そう思っていた。でも誰も愛なんてくれなかった。自分が捧げる愛を享受して、自分を好き勝手に使う人だけ。


 初めて愛を捧げられた。その愛は大きくて深くて温かかった。その愛に報いたい。こんななんの取り柄もない自分でも好きだと、愛していると言ってくれるなら。それならもう一度だけ愛してみたい。



「いやぁ!ライヤード!愛してるから死なないでぇ!」



 亜月の体から光が溢れた。

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