第14話 目覚め③
「動きを奪ってすまなかった。でも君の体調が心配なんだ。」
「んぅ…。」
三度ベッドに戻される。何と今度はライヤードさんも隣に横になった。
「ちゃんと説明するから、どうか暴れないでくれ。治療が出来るものは、君の胸の穴を塞ぐために魔力をつかいきってしまったんだ。僕は治癒魔法は苦手だとで、痛みを和らげることしかできないから…。」
優しく体を抱き寄せられる。ライヤードさんの肌が触れるところから、温かい何かが流れ込んでくるような感じがする。ささくれ立っていたこころが少しずつ和らいでいくようだった。
私の体の強張りが解けていくのが分かったのか、ライヤードさんが私の顔を覗き込んできてにっこりと笑った。
「うんうん、顔色も戻ったね。良かった。体に負担になるから横になったまま話そうね。」
男の人と一緒の布団に入ったままなんて恥ずかしくて冷静に話を聞くことなんてできない。なんとかライヤードさんだけでも外に出てもらえないかと伝えたいが、先程のライヤードさんの言葉で固まってしまった口はうまく動いてくれなかった。
それを了承と受け取ったのか、ライヤードさんがそのまま話を始めてしまう。
「とにかく最初に謝らせてほしい。僕が君を聖女と勘違いしたから君がこんな傷を負ってしまったんだ。本当に申し訳ない。」
「…い、いえ。」
やっと価値が動くようになった。悲痛な表情で謝ってくるライヤードさんの言葉を否定した。
「いいん…です。」
きっと、聖女を一目見た時から、御門君にとって私は邪魔物だったのだろう。ただ、彼の中にある正義の心が私を蔑ろにすることを許さなかった。だから、私が魔王であるライヤードさんと一緒にいたことで、カレの正義の心が言い訳を得てしまった。
ワタシは魔王と通じている「悪物」だと。
悪者には何をしたっていい。たとえもと彼女だったとしても、悪物なんだったら殺したっていい。とんでもなく極端な考え方だが、御門君にはそういう思想があった。
勧善懲悪、悪はどこまでいっても悪で正義こそが優先される。
その極端な考え方は御門君にとってあまり良いものではないと考えていたが、結局治すことはできなかった。
もう私は御門君のために何かすることはできない。あとは運命の相手であるサキラさんがやってくれるのだろう。2人で協力して魔王を討ち滅ぼすのだ。
そう目の前にいるこの人を。
「…ライヤードさんは魔王なんですよね?」
「うん、そうだよ。この魔界を治めてる。」
「…なら悪い人なんですか?」
私の質問にライヤードさんは首を傾げたあと、クスッと笑った。
「悪い人っていう定義がよく分からないけど、人間は僕達魔族を悪いものだと思ってるんだろうね。自分達を脅かす存在だって。…でもね、僕達が自分から人間に手を出したことなんてないんだよ。」
「え?」
「僕達はただ平和に暮らしたいだけなのにね。人間たちは僕達の大きな体や強い魔力を恐れてるんだ。いつか自分達を殺しにくるんじゃないかってね。だから、殺される前に殺す。禍々しい姿をした生き物は悪に決まってるってね。」
「そんな…!」
そんなことあってはならない。見た目だけで人を判断したり、勝手な偏見で決めつけたり。
「それに、魔族は見た目が良いものが多くてね。…美しい娘たちが拐われて、人間の貴族たちの観賞用の奴隷になっているんだ。もちろん全員救い出すつもりだけど、あまりにも忙しすぎてなかなかうまくいかないよ…。」
ふぅとためいきをつくライヤードさんの目元には、大きな隈が刻まれている。思わずその目元に手を伸ばし、その隈を親指で撫ぜてしまった。最初に、目を丸くしていたライヤードさんだったが、嬉しそうに微笑んで私の手に頬を擦り寄せてきた。
「優しいね、ありがとう。…名前を教えて。君の名前を呼びたい。」
低く囁かれる。私は小さな声で自分の名を告げた。
「アヅキ。とてもいい名前だ。僕の唯一。」
ライヤードさんの満面の笑みに、私は心臓が高鳴ってしまったのだった。
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