第9話 真夜中に②

 付き合ってほしいという申し出は最初断られた。そんなことのために助けたわけじゃないと。


 だったら、少しでも役に立とうと体が小さい御門君のために、背を伸ばすためのストレッチや食べ物を徹底的に調べあげた。


 剣道部だが、全く勝つことができない彼のために、効果的な練習方法や筋力トレーニングを書いたノートを作成してした。


 勉強が得意でない彼のために必死で勉強し、わからないところを教えてあげた。


 おしゃれやファッションに無頓着だった彼のために、似合う服を着て買い与え、美容室にも連れて行った。


 すると、彼は劇的に変化していった。小さく細かった体は縦にも横にも成長して、中学3年生になる頃には、他の男子にも勝る惚れ惚れとした体躯を手に入れていた。


 負けたことしかなかった剣道の試合では連続勝利回数を何回も更新し、とうとう主将となって全国さえも制した。


 クールな顔に合った髪型と整えられた眉のお陰で、もともと整った顔立ちは、モデル並みのそれへと進化した。素材の良さを活かすシンプルなファッションは女子にも男子にも人気で、彼の周りには多くの人が集まるようになった。


 中学3年の卒業式。彼のために捧げた三年間を思いながらもう一度御門君に告白した。すると彼は頷いてくれた。



 それがどれだけ嬉しかったか。


 私が育てた御門君。雛から成鳥になったから巣立ってしまったんだろうか。でも私は親ではない。


 全部私が勝手にやったことだと言われたらその通りだ。でも、最初申し訳なさそうにしていた御門君は、だんだんと私がサポートすることが当たり前になってしまっていた。


 テスト対策のプリントを作らされた。彼が生徒会になってからは、書類の整理など仕事の一部を任されていた。お弁当だって毎日要求されたし、剣道の試合で勝てないと「お前の分析が悪いからだ」と何度も怒鳴られた。


 全部彼を愛していたからできたことだ。自分の時間なんてほとんどなかった。ただ御門君のために捧げた時間だった。


 その時間を返せなんて女々しいことは言いたくない。でもつらい。彼のためにやっていたサポートは御門君にとってはいらない気遣いだったのだよう。迷惑だと思っているのだろうから。


 むしろ、サキラさんの方が、御門君のことをしっかり守ってくれるかもしれない。私よりもずっと優秀で、魔王を倒して世界に光を取り戻すことのできる人物なのだから。平凡で何の取り柄もない自分とは違う、この世界になくてはならない存在なのだから。


 また新たな涙が流れ出てくる。平凡な私は、特別なサキラさんのために恋を諦めないといけないんだろうか。


 恋って誰でもしていいんじゃないの?優劣なんてないんじゃないの?


 そんな疑問にはもう誰も答えてくれない。私は鼻をズビズビとすすっていた。







「ガチャ。」


 部屋の窓の方から小さな音が聞こえてきた気がした。


 

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