第60話 畏怖されるおじさん
というわけで、俺たちはエルフ集落跡で魔道具の発掘をすべく、行動を開始した。
まずはアドレウス四姉妹が実地で調査し、『大鍛冶城1』と巣穴周辺の、行き来しやすいルートを見つけてもらう。
そのルートを荷車の通れる道に拡張していくのは、冒険者たちの仕事だ。
『05式魔導作業鎧』を着込んだ冒険者の面々が、斧代わりの『05式魔導円匙』で木々を切り倒して『大鍛冶城1』に引きずって運ぶ。次に地面を『円匙』で掘り起こして根っこや石を取り除き、踏み固めて道とする。
道に等間隔で『魔除けの石灯篭』を設置すれば、たいていのモンスターは寄り付かなくなる。安全確保が出来たら周囲の魔石を採掘し、回収。
以降、巣穴周辺の旧集落跡に辿り着くまで、この繰り返しである。
ラティーシャちゃんの魔法があればもっと効率的だったろうが……。
「道は文明の基礎だぜ、大旦那。いちいち国のトップ層が出てきちゃいけねえよ」
と、眼鏡をかけて羊皮紙をめくりながら、女戦士さんが言った。拠点で商人相手のあれこれを準備してくれているのだ。
「本来、現場の人間だけでやるべき仕事だよ。大旦那じゃないと作れねぇものが、ティリクの森の開拓に必要だから、大旦那がセコセコ動き回っちゃいるがね。それも最終的には弟子にやらせないと、カラダぶっ壊すぜ」
「耳の痛くなる忠言ありがとう。文官だけじゃなくて、弟子の選定も急がないとねェ」
確認し終えた羊皮紙を巻いて、机の上に置く。魔石類の在庫リストらしい。
「各国、各地方、いろんなところから送り込まれてくる鍛冶屋や錬金術師を、政治的バランスを考えて採用しなきゃいけないんだっけ?」
〈そう。面倒くさいよね〉
「そもそも、どうやって教えるのかも考えてないからなァ。弟子を取っても、そこから手探りの育成になるだろうし……」
護衛として付き添ってくれている女僧侶さんが「はい」と手を挙げた。
「だったらいっそ、政治的なつながりの一切ない地元の孤児はどうです? まずはひとりかふたり。で、その子たちを内弟子として、試験的に鍛えてみるんです。うまく育たなくてもメイドさんか執事さんかお人形さんにはなるでしょうし」
お人形さん、というワードはスルーしておく。触れないほうがいい。
しかし、孤児を育成するというのは、なかなかの名案かもしれない。彼ら彼女らが育てば、その子たちにティリク・ベースに住みこんでもらったり、外向けのクラフト講義を担当してもらったり、いろいろ手が広がる。
ラティーシャちゃんに相談してみよう。
「あ、ちなみにご領主様がお望みでしたら、いいお人形さんがいますよ。テシ子っていうんですけど」
「あ、はい、結構です」
さて、そんな風にごちゃごちゃクラフトしながら過ごすこと三日。
ついにティリク・ベースに最初の商人がやってきた。魔石を市場に流してからの期間を考えると、即断即決して来たのだろう。基本的に商売は女戦士さんにお任せして、俺はクラフトに専念できる――はずだったのだが。
「大旦那。やけに豪華な馬車の商人だと思ったら、金印入りの紹介状なんて持って来やがったぞ」
女戦士さんが焦り顔で、鍛冶場まで駆けて来た。
「きんいん……?」
〈黄金の印章で、金印ね。要はえらい人のハンコ。この場合は王様でしょ〉
「あ。もしかして、アゾール国王の?」
女戦士さんがうなずいた。
イザヨイ領が所属するアゾール王国の、いちばんえらい人である。グランバル領からイザヨイ領へと変わる際に一度、謁見した。……あと「ウチの娘を娶らんか?」と交渉されているところなので、やや気まずい。
「紹介状を持ってるってことは、王様の代弁者みたいなもんだ。アタシが補助につくから、大旦那が直接やり取りしてくれ。……質のいい魔石を回してほしいんだとよ。さすがに国王に
なる。間違いなく、なる。どうしよう。ラティーシャちゃんに相談しようにも、彼女はザルツオムだ。
いろいろ悩んだあげく、普通に魔石を売買しつつ、大ぶりな『精製魔石』をひとつ包んで「アゾール国王への、手作りのお土産です」とお渡しした。これで察してもらおう。
あと、冒険者たちが狩ったモンスターの素材なども売って、最初の取引は終わり。王家と繋がりのある商家が先陣を切ったためか、数日後にはひっきりなしに馬車がやってくるようになった。
やってくるのは、商人だけではない。
「雇って欲しいと、冒険者が大量に流れ込んできております」
クラシックなメイド服を着用したテシ子が報告してくれた。最近はなぜか、コルンさんにメイドのあれこれを習っているらしい。「いずれは護衛メイド部隊や暗殺メイド部隊を組織し、イザヨイ領のために御奉仕させていただく所存です」とか言っていた。四姉妹揃ってガチの顔で。もう好きにしてくれ。
ともあれ、冒険者が増えるのか。
「マジか。ありがたいねェ」
「いえ、高性能な魔導武具を配布しているという情報に釣られた荒くれ者が多いので、使い物になるかどうか。武具を貰ったらすぐに逃げてやる、などと声高に言う輩もおります。ケンゾー殿のご厚意を利用しようとは、不届き千万な愚か者どもですな」
あー。そりゃそうか。そういうやつだって、出てくるよなぁ。
〈どうする、相棒〉
「うーん。……テシウスくん、こういう場合って、どうしたらいいと思う?」
「冒険者の流儀で言えば、叩き潰して二度と逆らえないよう調きょ――立場の違いをわからせるのが常道ですが」
「ああうん、なるほどねェ……」
実例が言うと、説得力がある。
暴力沙汰は好ましくないが、仕方あるまい。
「テシウスくん、対応、お願いしてもいいかい? ポーションで治せる範囲で、ね」
「心得ました。――やりすぎないよう、注意します」
〈つまり、わからせメイド部隊だね〉
「拝領いたしました。わからせメイド部隊、出動いたします!」
勝手に変な部隊を作るな。
というわけで、テシウスくんたちアドレウス四姉妹が、新たにやってきた荒くれ冒険者たちの中でも素行の悪いものと決闘、もといシメて回ることになった。
翌日、クラフトの合間に外に出ると、テシウスくんがさっそくいかつい大男の喉元にレイピアを突きつけていた。メイド服のまま。
「ま、参った……!」
「ふん。女の体になっても、私の技の冴えに変化なし。貴様ら程度に倒される私ではないとも。……ちなみにご領主のケンゾー殿は、私の十倍は強い。このカラダもケンゾー殿の御業による変化。人智を超えた御方、悪意は全て己が身に跳ね返ってくると心得よ」
決闘を囲んで囃し立てていた冒険者たちが美少女メイドを見て、俺のほうに視線をやってから、もう一度テシウスくんを見た。
「テシウスを女体化させたのは事実だったのか……!」
「穏やかそうな顔して……なんて特殊性癖だ!」
「テシウスをメス堕ちさせた男……!」
「逆らっちゃいけねえでよ、ワシらもメスにされてまうでのう……!」
……おい。
まあ、悪意的な人間が減るなら、いいか。
※※※あとがき※※※
日曜中に更新しようと思ってたんですけど、なんか時間かかっちゃったのだ。
申し訳ないのだ。
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