34
天井がアルバスティによって破壊されているため、そこから崩れた石がレミへと降り注ぐ。
小石がポツポツと落ちてきても彼女は、母にすがりついて泣いているだけだった。
そして、ついに人ひとりを潰せるほどの大きな石壁がレミの頭上へと落ちてきた。
急いで避けなければ確実に死ぬ。
それでも母の死に打ちのめされているレミは動けない。
もうこのままクレオの亡骸と共に、サゴール遺跡で永遠に眠るかと思われた。
だが、彼女は無傷だった。
それは死の間際に母クレオが娘の首にかけたインパクト·チェーンが、降り注いでくる石壁をすべて吹き飛ばしたからだった。
「母さんのチェーンが、僕を守ってくれたの……?」
色のない目で自分の周囲を舞っている母のインパクト·チェーンを眺めながら、レミはそう呟いた。
インパクト·チェーンは持ち主にのみ従う特別なアクセサリーだ。
それが持ち主を失ってもまだ意思を全うしようとしていることに、レミの顔に笑みが浮かぶ。
「ごめんね、母さん……。僕、もう逃げないって決めたのに……。また諦めるところだった……」
輝きながら舞っているインパクト·チェーンにそう言ったレミは、母の亡き骸を抱いて立ち上がった。
そして、自分の右手首に巻いてあったインパクト·チェーンを変化させて開いた天井へと伸ばし、その場から外へと脱出する。
「母さんも言ってたよね。僕と一緒にアルバスティを倒すって……やるよ、やってみせる。母さんの力を借りてッ!」
――遺跡内からの脱出に成功した調査隊とディスケ·ガウデーレ全員は、追いかけてくるミイラの大群と戦っていた。
両陣営の負傷者を互いに助け合い、スキヤキ、ソドそれぞれの指示を受けながら化け物の群れを返り討ちにしている。
ユリも相手が人ではないためか、最初の戦闘のときよりも積極的に前に出ていた。
「前に出すぎたぞ、ユリ!」
「陣形を乱すなって、さっきからソドとじいさんが言ってるでしょ!」
そんな彼女のことをツナミがフォローし、敵であったシルドも彼を手伝っていた。
そんな彼ら彼女らの奮闘もあって、調査隊からもディスケ·ガウデーレからも、今のところ誰一人として死人は出ていない。
いくらでも湧いてくると思われたミイラの化け物も、次第にその数を減らしていく。
やはり協力したことが皆の命を繋ぎ止めた。
その場にいた誰もが、このままいけば化け物を一掃できると思っていたが――。
「なんだあれは……? あんなものがあっていいのかッ!?」
「くッ!? 封印か解かれたのかッ!」
サゴール遺跡から十メートルはある巨大な女――アルバスティが現れた。
アルバスティは全身に巻き付いた赤い包帯のようなものを振り回しながら、遺跡を破壊して出てくる。
調査隊のメンバーたちもディスケ·ガウデーレの面々も、現れたアルバスティの姿を見て、完全に戦意を失ってしまっていた。
あんな巨大な化け物に人間が敵うはずがない。
きっと扉の側にいたレミもクレオを殺されてしまったと思い、皆その場に立ち尽くしてしまっている。
「む、無理だ……。あんなのからは逃げるのだって……」
「想像していた以上にヤバいぞ、こいつはッ!?」
シルドが握っていたヤタガンを落とし、ツナミは冷静さを失くして声を張り上げていた。
ソドは声すら出ない様子だった。
しかし、そんな中でもまだ戦意を失ってない者がいた。
その場にいた全員が諦めかけたそのとき、スキヤキがその白髪頭を掻きながら前へと出てくる。
「まだ諦めるな! ここでわしらが折れれば世界が終わる! どちらにしても死ぬならば戦って死のうッ!」
老人の言葉に、調査隊はもちろんディスケ·ガウデーレの者たちも表情を変える。
恐怖で怯えていた顔は決意に満ちたものへとなり、ソドがヤタガンを掲げて声を張り上げた。
「その通りだ! オレたちは世界最強の暗殺組織、ディスケ·ガウデーレなんだッ! このくらいの修羅場はいくつも越えて来ただろう!」
スキヤキの横へと並び、ソドが前に出ると、その場にいた全員が武器を掲げる。
彼と老人に大声を返す。
その光景を見ていたユリは、その身を震わせていた。
それは、アルバスティが恐ろしいから震えているのではない。
彼女は巨大な化け物を相手に、皆が一つになって立ち向かおうとしている姿に感動していたのだ。
ツナミがそんなユリの肩にポンッと手を乗せると、側にいたシルドはその口を開く。
「言ってくれるじゃないの、あのじいさん」
「スキヤキ先生だ。そういうお前の仲間もやるじゃないか」
ツナミとシルドはユリを間に挟んだ状態で、互いに笑顔を向け合っている。
そこに言葉はなかったが、その表情からはたとえ死んでもアルバスティを止めてみせるという覚悟が見て取れた。
そして、スキヤキとソドの掛け声と共に、調査隊とディスケ·ガウデーレが一塊となって巨大な女型の化け物へと突っ込んでいった。
ユリはその大群の中にいながら思う。
レミと彼女の母クレオとどうなったのか。
まさかアルバスティに殺されてしまったのか。
「いや、そんなはずない……。レミが死ぬもんか……。お母さんと一緒に、ちょっと休んでるだけだよ、きっと……」
ユリはそう呟くと棍を握り直し、仲間たちと共にアルバスティへと向かっていく。
ここでこの化け物を止めねばどうせ世界が終わるのだ。
だったら皆と戦ってやる。
全員で戦っていればそのうちレミとクレオも姿を現すと、彼女は信じて疑わなかった。
「うおぉぉぉッ! レミッ! あたしもやるよッ! だから戻って来てねッ!」
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