​異世界転生したんだから、『再起動』がすべてを救ってくれる

星風あおい

​異世界転生したんだから、『再起動』がすべてを救ってくれる



 ――ついにここまで来た。



 現世で交通事故から子供を助け、魂が異世界転生して数年。

 勇者である少年は、輝く薄刃の剣を構えていた。 


 魔王と呼ばれる男は玉座に座っていた。

 白い怜悧なその美貌、深紅の瞳から放たれる威圧感は、王と呼ぶにふさわしい。

 だが、自分を倒す勇者が来たというのに、退屈そうに肘掛けに腕を乗せ、顎に手をやっている。

 王は口を開いた。


「なぜ貴様らは我らに挑む?」

「魔族がいる限り、人は怯えて暮らさなければならない!

 それを打ち破るのが勇者の役目だ!」

「そうか……」


 魔王は独り言のように呟くと、豪奢なマントを払いながら立ち上がった。

 瞬間、


「では――これでいいかね?」


 魔王の左手が勇者を刺し貫いていた。

 勇者の鎧に、石の床に、こぼれあふれる血。


「心臓を外してしまったよ。良く避けた」

 

 魔王は勇者の強さに触れ、満足げに笑った。


「しかしさらばだ、勇者よ」


 左腕が勇者の身体から引き抜かれる。

 濃い色の血を吐き、だが勇者は叫んだ。


「『再起動リブート』!!」


 目もくらむほどの光が少年に集まり、そしてはじけた。


 ――転生した少年に開花した能力は『再起動リブート』。

 時間は巻き戻せない。傷が治癒するわけではない。

 だが、『人を生き返らせること』ができるのだ。

 機械の電源を入れ直すように。

 そして、それが意味するのは――。


 魔王は眉を上げ、


「ほう!? それが貴様の『転生の力』か!

 死を乗り越えるのではなく、別の運命を引き寄せるとは!」

「そうだ、魔王よ! お前の運命、絡まったその糸を、ゼロからやり直せ!」


 血まみれの手で、勇者は魔王に剣を振るった。

 魔王に突き刺さる、白銀の神剣。

 勇者は叫ぶ。


「『再起動リブート』!」


 そして再び、光ははじけた。





 ――自らの血で汚れた床に、魔王と勇者は横たわっている。

 

 勇者が告げる。


「俺は『世界』を変えたいんだ。

 運命を俺にほどかれたお前はもう魔王ではない。

 だけど、きっとこの『世界』は、人と魔を相容れないものとして存在させ続ける。

 人間は魔族に食われ、魔族は人間に憎まれる。

 だから、また生まれる次の魔王と勇者を――この『世界システム』そのものを、たおしに行かないか」


 勇者と魔王は視線を合わせる。 

 瞳を細め、相手は答えた。


「『世界に仇なす』、それこそ我の欲するところだ」




 そして、魔王と呼ばれた男と、勇者であった少年は、互いの手を取った。


 この『世界』そのものを、『再起動』させるために。



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