第14話 うたた寝
また夢の中だ。ここは図書館の様だ。
僕自身には見覚えがないけど、夢の中の僕は幾度となく通っている、既視感どころではない。
「どうですか? 私の作品?」
顔や声は
「内容は悪くない、いや、寧ろ凄く良いよ。それだけに勿体ない。例えば……」
そうして僕は暫く話し込んでいた。図書館の扉を開けて外に出た時、辺りが真っ白な空間に変わり目が覚めた。
「どうだった? 私の小説?」パソコンの前に座っていた真夏が調べ事の合間に回転椅子ごと振り返った。
僕はというと真夏の小説を読み終えた後いつの間にかうたた寝をしていた様だ。時間にするとほんの数分。だが夢の中では志乃と一時間以上話していた筈だ。
夢は不思議だ。人間の脳が情報を整理していると言われているけど、僕の中に無い言葉や考え方が正一の口から出てくる。志乃に対して抱いている気持ちは真夏には感じない気持ちだ。それとも西条先輩が言っていた冗談の様に、フロイトの夢診断
「話の流れもいいし終わり方も前と変えてるよな? きれいに終わってる。だけど、だからこそ勿体ないところがある。これは真夏の小説全部に言える事なんだけど……」
真夏の小説全てに共通しているところ。まず最初に基礎の基礎なんだけど、段落初めの一字下げや、感嘆符や疑問符後の空白入れ、三点リーダーの繰り返しなど暗黙の決まり事が出来ていない。
次に句読点の多さ。そもそも読者がわかりにくくならないようにと入れていくのが句読点の始まりだったのだけど、多すぎてもリズムが悪くなるし読者に失礼だ。
〝てにをは〟の使い方の間違いも目立つ。あとは説明のための形容詞が多い。〜の〜の〜の名詞、って感じだ。これらは言葉の前後を入れ替えることで意味を変えずに繋いで省略することもできる。
そして同じ言葉の繰り返しだ。「…
地の文の人称のブレも目立つ。基本的に主人公の心情で語られているのに、急に話し相手側の立場から語られている部分や、作者である真夏の考えや口調が挟まれる部分すらある。一人称の場合、作者ならわかるけど物語の登場人物の立場からはわかりかねる情報の取扱いにも注意が必要だ。
「全てを一気に直せとは言わないけど、一字下げや〝てにをは〟の間違いは直した方がいいよ。内容は良くても読んで貰えないと意味がない。一字下げや三点リーダーの偶数使用のルールが守れてないってだけで話が転んでいく前に読むのをやめる読者だっているんだよ」
「えー、そんな程度で読むのやめちゃうの? 意味は通ってるのに?」真夏の言い分も
「真夏がさ、ラーメン屋に行ってテーブルに出される時に丼に
「えー、確かにそれは食べる気なくすわ。ってことでラーメン食べ行こっ」
「なんでそーなるんだよっ!」
「だぁってー、頭使いすぎてお腹空いたんだモン。あと、……ありがと」
「ったく」少し毒づいて返事したが、顔を赤らめて恥ずかしそうに礼の言葉を言う真夏のことが少しだけ志乃の姿と重なって見えた。
そして真夏にしたアドバイスの内容は、先ほどの夢の中で正一がしていたものと全く同じ内容だ。僕は自分の考えや言葉じゃないのに、彼女にお礼を言われたことに申し訳なさを感じた。
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