第27話 竜甲兵③


 五十メートルほどの円を描くようにして兵士達が並んだ両端の一方に俺が、もう一方には竜の化け物が立つ。

 隠れ家の方向には例の傭兵さん達に立ってもらうようにお願いする。

 彼らも“いざ”という時には、すぐに逃げ出したいという事で、そこは上手く行った。

 これで闘っている間に、家の方に別の兵隊が動く事は無いと思う。


 さて、問題はどう戦うかだ。


「どちらかが倒れて二〇ベル(二〇秒)立ち上がってこれなければ、それで勝負あった、と云う事にしましょう」

 ヒゲ中年はそう言ってきた。


 ふざけるな、と思う。

 要は俺を殺す気、まんまんじゃね-か!

 ご丁寧に、“万が一死んだ場合は事故と言うことで、お願いしますよ”とまで付け加えてきた。

 誰にどうお願いすんだよ!


 まずは、テメェから事故にわせたくなったよ!

 ついでに後方で床几しょうぎ(折りたたみ椅子)にふんぞり返ってる、あのデブガキもだ。


【ほう、良い感じに感情が黒くなってきたな、だが未だ足りんぞ】


 レヴァにそう言われて、ドキリとなる。

 危ない! ある意味ではこいつも俺の命を狙ってる存在だったんだ。

 誰かに敵意を持っても、無駄な殺意はもっちゃあいけない。

 気を引き締めようと思う。


 たいまつを傭兵団のリーダーに預かってもらう。

「なあ、お弟子さんよ。もし、互いに生き延びたら、いつかシーアンで会おうぜ」

「シーアン?」

「なるほど、あんた余所よそ者か?

 確かに黒目、黒髪なんてリバーワイズ卿以外にこの国じゃあ見たことも聞いた事もないな。

 シーアンはここから北に行ったでかい街だ。すぐにわかるさ。

 ギルドに来る事があれば歓迎するぜ」

「分かった、ありがとう」

 権力者に逆らって生き延びた場合、人里に降りることが出来るかどうか気に掛かったけど、好意は素直に受けた。


 開始線に立つ。

 さて、どうしようか。あの化け物、移動する姿からみて足も速そうだ。

 それにあの爪。捕まったら、それだけで終わりだろうね。

 いや、その前にあの剣は何なんだよ。人間相手に使って良い物じゃないだろ!

 このショートソードじゃあ、話にもならない。

 形だけは持ってみたけど、結局は鞘に戻した。


 やっぱり、“あれ”しか無いよなぁ。

 なんだか気が重くなってきた・・・・・・



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



『リアム、聞こえるか!』

 ズール隊長の声。

 ギルタブリル様の近衛兵達は誰も彼も声だけで嫌いになれる連中ですけど、この男はその中でも、特に気色の悪さが際だっていますわ。

 まあ、主人が主人では、そんな連中ばかり集まっても仕方がないのでしょう。


「はい、何か?」

 出来るだけ感情を殺して答えますが、声以上にふざけた言葉が返ってきますね。

『賭が始まったんでな、一フルン(一分)は殺すなよ。

 そうだな、一フルンと三〇ベルの辺りでやれ』


「風系統の魔術師ですと、捕らえるにも手間が掛かります。

 ご期待通りに行くかどうかは、お約束しかねます」


『やかましい! こっちは2ポートも賭けたんだ!

 言われた通りに出来なければ、負け分は貴様の給金からさっ引くぞ!』


「努力します」


 声を押さえて答えますが、本当ははらわたが煮えくりかえりそうですわ。

 やっぱり“クズ”としか言いようがない男ですね。

 こんな事が続くから自分で自分を買い取ることも出来ない。

 早く代官領近郊にもいくさが来れば良いのに。

 そうすれば、後からあの男を殺すチャンスはいくらでも訪れます。


 そう思いながら、正面を見据えます。


 開始、の声が響き渡りました!


 相手との距離を一気に詰める。どうやら風系統の魔術師では無かった様ですね。

 動きは鈍いです。

 刃渡り二モート(二メートル)、刃幅三〇セルテ(三〇センチ)ある巨大な剣を振り上げます。


 せめて苦しませずに、終わらせてあげましょう。

 あれ? 振り下ろした剣が不意に軽くなってバランスが崩れますわ。

 何が起きたのか分かりませんが、なにかマズイです。

 目の前が真っ赤に輝いたかと思った次の瞬間、竜甲の右腕が吹き飛びました。



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