第15話 無実は証明出来たけど、失ったものは大きかった
「痛っ! って、何をするだんだ?」
「はぁ? 『何をする』だぁ~ドリー、あんた自分が何をしたか分かっているのかい?」
「待て! 女将なんのことだ?」
「しらばっくれて。ミリーこっちにおいで!」
「なあに? おかあさん」
叩かれた左頬を摩りながら、ドリーが女将に質問すると女将が舌打ちしながら、宿の奥にいる幼女を呼び寄せる。
「お母さん? そうか、女将は母親になったんだな。おめでとう!」
『バシッ!』
「痛い……」
「ドリー。あんた本当にいい加減に惚けるのはやめな! こっちは、ネタはつかんでいるんだからね」
女将に言われドリーは逡巡するが、まったく思い当たることがないため、また怒られるのを承知で女将に聞いてみる。
「なあおか「ねえ、この人がわたしのおとうさんなの?」……み、って待て! なんだ、どうして、この幼女はワシをお父さんと呼ぶ? 女将、
「はぁ? 理由ならこっちが聞きたいよ! こっちはあんたの知り合いってだけでいきなり、この子『ミリー』を置いて行かれたんだからね」
「ちょっと、待て!」
「なんだい、言い訳なら聞きたくないよ!」
「言い訳じゃない! ワシの言い分も聞け!」
「なんだい。男らしくないね。さっさと謝れば許してやってもいいと思っていたけど、そっちがその気ならもういい! ここの敷居は二度と跨がせないよ! とっとと出て行っておくれ!」
ドリーと女将はしばらく言い合っていたが、女将の方から埒が明かないとばかりに会話を打ち切り、宿の奥へと引っ込んでしまう。そして、それをみたドリーが酷く落ち込む。
「まずいよ、恒。どうする?」
「そうだぜ。このままじゃ俺達までドリーのおっさんのとばっちりで泊まれなくなるぞ」
「ソレはイヤだよ。恒……どうにかならない?」
由香、明良、久美にどうにかしてくれと恒に頼んでくるが恒自身もどうしたらいいかと考え込む。そして、問題である幼女はどうみても五歳前後であることに気付き、ドリーに質問する。
「ねえ、話の途中ごめんね。ドリーはさ、さっき十年前にこの街に寄ったって言ったよね。その後は?」
「なんだワタル。何故、そんなことを聞く? だが、今はそんなことはどうでもいい。どうにかして、女将の誤解を解かないと、野宿になるぞ」
「のじゅく?」
「ああ、そうだ……何故、お前がワシのところにいるんだ? 女将の側に戻りなさい」
「おかあさんはこれからはおとうさんといっしょにいなさいって。どゆこと?」
「あいつ……」
女将はどうやら、この幼女……ミリーをお父さんであるドリーに返すことで話を決着させた気でいるようだ。しかし、恒はこの幼女の年格好から自分の推測に間違いはないはずと確信してから、ミリーに話しかける。
「ねえ、ミリーちゃんだったよね。今、いくつかな?」
「えっとね……ごさい」
「そうか。じゃあさ、お兄ちゃん達は女将さんと話したいことがあるからさ。悪いんだけど呼んで来てくれるかな?」
「いいよ~ちょっとまっててね」
ミリーが宿の奥に向かうとドリーだけでなく明良達も恒の考えていることが分からずに、ただジッと恒のすることを見るが、由香だけはそうは思えないようで恒にキツく問い掛ける。
「恒、どういうことなの? あんな小さい子を騙すような真似をするつもりじゃないでしょうね?」
由香の見幕に押され気味になりながらも恒はそんなことはしないと由香に言う。
「信じていいのね? それで、なんであの子に歳を聞いたりしたの?」
「それ! ドリーは十年前にここにきてからは、今日まで寄っていないと言ってたよね」
「うん、そうね。あ! そっか、そういうことね」
「「「どういうこと?」」」
ドリー達が恒に説明を求めるが、恒は何度も説明するのが面倒だからと女将が来てから説明すると言う。そして、そこにミリーに呼ばれた女将が現れる。まだ、いらつきは収まっていないようだ。
「なんだい。あんたが私に用があるって聞いたけど?」
恒はまだ機嫌が悪い女将に少しばかり萎縮するが、寝床確保の為と一度、深呼吸をしてから女将と対峙する。
「呼び出してすみません。ですが、俺達の寝る場所の為にもドリーの無実を証明しないといけないと思って女将さんを呼び出しました」
「なんだい、ドリーの無実って。実際にミリーがそこにいるんだから、有罪確定じゃないか!」
「そこ! そこなんです!」
「え? な、なんだい急にビックリするじゃないか」
女将はミリーの存在こそが、ドリーの有罪の証明だとばかりに言うが、恒は逆にそれこそがドリーの無罪を証明する存在だとばかりに強調すると、その様子に女将が驚く。そして、恒は女将にミリーの年齢を確認する。
「つかぬ事をお伺いしますが、女将さんはこのミリーの年齢を知っていますか?」
「なんだい藪から棒に。もちろん、知っているさ。五歳だよ。それで、それがどうしたってんだい?」
「そうなんですね。じゃあ、ドリーは無実確定です」
女将からもミリーの年齢を聞き出したことで、恒はドリーの無実が確定だと女将に話す。
「なぜだい? この子の母親はドリーの子だと言っていたんだよ?」
「でも、ドリーは十年前にこの街に寄ってからは、今日まで来てないって言ってます。そうだよね、ドリー」
「ああ、それはワタルに話した通りだ」
「そんなの証拠にならないだろ! それに他の街でこさえたかも知れないし……」
年齢とドリーがこの町に十年前から来ていないと言っても、そんなことはなんの証明にもならないとばかりに女将ははねつけてしまう。そして、恒は埒があかないので、それならドリーのもう一つのことを話せば納得してもらえるだろうと思い話そうとしたところでドリーに相談する。
「……ダメみたいだね。ドリー、こうなったらもう一つのことも話さないと女将さんは承知してくれないと思うけど、いいかな?」
「待て! ワタル。お前は何を言っているんだ? ワシの『もう一つのこと』ってのはなんだ?」
「えっと、それはドリーがまだど「ワタル、後生だ! 頼むからそれ以上はここでは言わないでくれ」……ぷはっ! じゃあ、ドリーが女将さんに直接言うんだね。そうじゃないと多分、許してくれないよ」
ドリーと相談している途中にドリーからなんのことだと聞かれたので、それを言いかけたところでドリーが恒の口を塞ぐ。そして、恒が言うくらいなら自分の口から言うとドリーが言うので、恒はドリーに任せることにした。
「分かった。ワシから言おう。女将、すまないがちょっと耳を貸してくれないか」
「なんだい、コソコソと。そんな、ここでは言えないようなことを私だけに話そうってのかい? ふん! そんなのお断りだね」
「女将さん、そんなこと言わずに頼むよ。ドリーにだって恥ずかしくて人に言いたくないことでも女将さんにだけは言って、自分を信じて欲しいって気持ちがあるから、女将さんにだけ聞いて欲しいんだよ」
「私にだけ? それは本当かい?」
女将はドリーの告白とも言える内容に興味を持つ。それに女将にだけ話したいというのも女将の興味を引きつけるには十分すぎるないようだろう。
「ああ、ワタルには何故かバレてしまったが、他の連中には話したこともない。もちろん、あのギルマスも知らない私の秘密だ。女将、ワシの無実の証明の為にも女将にだけは知っておいてもらいたい」
「ふぅ~ん、そう……私にだけ……ね。いいわ、話してみなさい」
女将に了承してもらったドリーは女将に近付くと、その女将の耳に口を近付けるとドリーの秘密ともいえることを話し始める。
「そうか、すまんな。では、失礼して……実はな、恥ずかしながら……と、言う訳なんだ」
「え~嘘でしょ! そりゃ、こっちがいくら誘惑しても乗ってこない訳よ。もう、なんだ。そういうことなら、早く言いなさいよ、バカ!」
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