第13話 お金がない!

「じゃあ、行ってくるわ! ありがとうね、ワタル!」

「いいから、さっさと行け!」

「もう、ギルマスったら。ギルマスもこの下着を身に着ければ分かるわよ」

「……いや、俺には合わないだろ。いいから行けよ」

「分かったわよ。ユカ、ありがとうね」

「いいから、その下着は隠して!」

「それもそうね」

リリーは手に持っていた下着をスカートのポケットに突っ込み、ギルマス達に向かって軽く手を振るとギルドから出て行く。


「とりあえず、もう一度執務室へ入ってくれ。これからのことを話そう」

「分かった。皆、行こう」

恒が先導し、ギルマスの執務室に入る。


「来たな。よし、座ってくれ」

ギルマスに言われ、恒達はそれぞれにソファへと座る。


「ふむ。まあ、見てくれはその辺の連中と似たような雰囲気にはなったな。でも、問題はだ。坊主と、そこの小娘だ」

ギルマスが恒と久美を指差す。

「俺と久美の何が問題なんだ?」

「恒と久美……なんで久美が。恒と私じゃなくて」

「由香、問題はそこじゃない。問題は二人に共通する部分だ。どこに問題があるってんだ?」

「あ! 分かった。分かったよ、恒と久美の共通点!」

「ほう。お前は分かったのか。なら、言ってやれ。何がマズいのかを」

「いいけど、私の名は由香だからね。ギルマス」

由香に『お前』じゃなく『由香』だと言われ、ギルマスが怯んでみせるが、由香は一瞥することなく恒と久美に二人の共通する問題点について、話す。

「いい? 恒と久美の共通する問題点。それは頭! その黒髪だよ。でしょ、ギルマス」

「ああ、そうだ。そっちの坊主と嬢ちゃん……ユカは黒じゃないから、こっちではそう目立たないだろう。だが、黒髪は希少だ。そっちの世界じゃ知らんが、こっちでは悪目立ちしがちだ」

「でも、どうすればいいの? 急に髪の毛を染めろって言われても困っちゃうよね、恒」

「いや、そうでもないよ。『擬態カモフラージュ』っと、これでどう?」

「「「へ?」」」

由香に言われた恒が問題ないと答えると、恒がスキルを発動させ、髪色を明るい茶色、瞳の色を緑色に変えていた。

「恒? どうやったの、それ」

由香に聞かれたが、恒は秘密とだけ言うと久美の腕を取り、『貼付ペースト』と呟き、久美に近付くと耳打ちする。

「久美、自分が変えたい髪色と瞳の色をイメージしてから『擬態カモフラージュ』スキルを実行して」

「うん、分かった。『擬態カモフラージュ』」

恒に言われたように久美がスキルを実行させると髪色は赤に近い茶色、瞳の色は青色に変わる。

「うわぁ久美まで変わった……」

「ふむ、まあ細かい所は気になるが、見た目はそれでいいとしてだ」

「え~久美だけずるくない? 恒、私には?」

「今は、久美に必要だから使っただけで、由香には必要ないでしょ」

「う~分かったわよ」

由香が落ち着いたのを待って、ギルマスが口を開く。

「これで四人とも違和感なく、この街でやっていけそうだな。じゃあ、訓練は明日の朝八時に、ここの訓練場に集合な」

「「「「え~聞いてないヨ~」」」」

「そうか? 登録の時に言ったハズだがな。まあ、いいか。とにかくだ。新人の冒険者には一週間の基礎訓練を必須としている。もし、一日でもサボったらライセンスは剥奪だからな」

「そんな、横暴な……」

恒達はここでは冒険者ギルドに登録して、ライセンスを取得したあとは、さっさとアノ国から離れようと思っていたが、ギルマスからは最低でも一週間は基礎訓練を熟すようにと厳命される。

恒は少し辟易するが、しょうがないか受け入れることにする。そして、その間になるべくなら、この異世界の多くの情報を集めようと決めた。そして、恒達の言い分に対しギルマスはこれがこのギルドのルールだと突っぱねる。

「なんとでも言え。その内に俺に感謝することは間違いないからな。よし、それじゃこれで話は終わりだ。坊主……ワタル達から何かあるか?」

「あるも何もありありだよ」

「そうか。まあ、聞いてやるから言ってみろ」

「まず、服だよね。替えの服も欲しいし、下着とかも欲しい。それに武器もそうだけど、防具も欲しいし、カバンも欲しい。あ! あと、寝るところ。どこか紹介してよ」

「お、おう。随分と遠慮なく言ってきたな。まあいい。武器は基礎訓練で自分に合った武器を見付けるまでは買うなよ。防具も自分に合った戦闘スタイルを見付けるまではお預けだ。後は……服に関してはリリーに相談しろ。それと寝るところか。それはドリーが知っているだろうから、心配するな。と、こんなところか」

「もう一つ!」

「なんだ?」

「これを換金できないと、俺達は一文無しなんだけど」

そう言って、恒がインベントリから恒自身の体が隠れそうな大きさの鱗を一枚取り出すと、ギルマスに見せる。

「あと、これも」

もう一つ、一メートル四方くらいの薄皮の切れ端をギルマスに見せる。

ギルマスは恒が取りだした二つの物に目が釘付けになる。

「お、お前、これをどこで手に入れた?」

「これは……その……」

「これはワシがワタル達を保護した洞窟の中で見付けたものだ。どうだ? 換金出来そうか?」

「すまん。これは換金出来ない」

ドリーがギルマスに対し、お金になるか確認するとギルマスからは出来ないと言われてしまう。

「え~そんな~困るよ。ギルマス、なんとかならない? この鱗なんてそのまま盾に使えそうだとおもうんだけど?」

「ああ、そうだな。言い方が悪かったな。金に出来ないと言うのは違うな。正確には『このギルドでは換金出来ない』ってことだ」

「それじゃ、何も変わらないじゃない」

「まあ、聞け。いいか? お前らが持ってきたこの鱗だが、普通の龍じゃない。俺の勘だが、最古龍の鱗だと思う」

ギルマスの言葉にドリーを始め、恒達に動揺が走るが、ここでギルマスに気取られる訳にはいかないので、なんとか動揺を抑え込む。

「だから、では扱えないと言ったんだ。もし、売るのなら王都のオークションに出すのが一番金になるな。それと、その薄皮もそうだ。すまんな」

「「「……」」」

ギルマスは申し訳なさそうにするが、恒達はギルマスを責めることも出来ずに黙り込んでしまう。

「まあ、その代わりと言ってはなんだが、泊まるのは俺のツケがきくところを紹介してやろう。そして、基礎訓練が終わったら、普通に依頼を受けて返してくれたらいい。それでどうか勘弁してくれ」

恒達の前でギルマスが頭を下げる。

「ギルマス、いいよ。頭を上げてよ。それでいいから、こちらからお願いします」

「すまんな。とりあえずは一週間の基礎訓練が終わればお前達なら十分に依頼をこなせると思う。だから、その間は我慢してくれ」

「分かったよ。じゃあ、まずはその宿を紹介して」

「おう。今、地図と紹介状を書くから、ちょっと待ってくれ」

ギルマスは執務机に向かうと近くにあった紙に書き込む。

そして、それを待っていると明良から話しかけられる。

「まさか、その鱗にそんな価値があるとはな。でもよ、逆にここで売らなくて良かったのかもな」

「なんで?」

明良が恒に対し、ドリーの鱗をこの街で売らないで良かったと言うので恒はそれの意味が知りたくて明良に聞き返す。

「だってよ。ここはドリーのいた山とそれほど離れていないだろ。そんな所で、あの最古龍の鱗が売られたって噂になったら、すぐにアノ国から情報を確認しようと誰かが送り込まれてきたかもしれないだろ。そう思うと、ラッキーだったかもって思えてさ」

「なるほどね、明良のクセに考えているじゃん」

「そして、王都で売ることになれば出所を誤魔化せるかもしれないと言うのね」

「由香……お前は。久美、お前は俺の考えを分かってくれたみたいだな」

「でも、当面は無一文だね。下着とかどうしよう……え? 何?」

「「「お願いします!!!」」」

恒が宿や食べ物の心配はしなくてもいいかと安心したが、問題は下着の替えだなと呟いたところ、明良達から『お願いします!』と頭を下げられる。

「え? 何? どういうこと?」

恒が明良達の態度に動揺していると明良が恒にコソッと耳打ちする。

「お前、『複製コピー』出来るんだろ?」

「あ!」

明良の言葉に全てを察した恒は「分かった」と呟く。

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