第6話 そんな召喚理由

『待て。話をする前にだ。このままじゃお前達が話しづらかろう』

恒達の目の前にいた黒龍が一瞬光ったかと思うと、そこには黒髪で長髪、百九十センチメートルはあろうかという筋骨隆々の冒険者風の服を着た男がそこにいた。

「どうだ? これなら問題なかろう」

「「「「……」」」」

「どうした? どこかおかしなところがあるのか?」

人化した黒龍が自分の変化した姿に四人が何も言えないでいると黒龍はどこかおかしなところがあるのかと恒に尋ねる。

「あ! いえ、そうではなくてですね。確かにあのままじゃあなたの顔が高い位置にあったので話しづらかったのは確かなので、今の状態は有り難いのですが、俺達はあなたが『人化』が出来ることに驚いているだけで。別に他意があって何も言わなかった訳じゃなくてですね」

「まあ、そういうことならいい。だが、その話し方は止めてくれ。この世界での冒険者達の間では滅多に敬語は使わん」

「分かりま……分かった。これでいい?」

黒龍から敬語を使う必要はないと言われ、恒は了解したことを黒龍に言おうとして敬語になってしまったのを慌てて言い直す。

「ああ、いいぞ。それとワシの名はドリーだ。よろしくな」

「よろしく。俺は恒。彼は明良、そして由香に久美」

「「「よろしく」」」

「ああ。それで、なんでこの世界に渡って来たんだ?」

「え! 分かるの?」

ドリーに、この世界とは違う世界から来たことを指摘されたことに恒は驚く。

「分かるさ。多少は鑑定も使えるが、まずはお前達の格好、それにワシの姿……龍であるワシを見てもそれほど驚かずにいただろ。この近辺じゃ、この山の頂上まで登って来る物好きもおらんしの。それにそんな格好をした連中を以前に見たことがある」

「そうなんだ。ここまで人が登って来ないのは、ドリーがいるから?」

「ああ、そうだ。この世界では龍は食物連鎖の頂上てっぺんだからな。まあ、ワシは人は喰わんのだがな。いくらワシが言うても龍の姿のままじゃ、会話も出来んかった」

「あれ? でも俺とは会話出来たじゃない?」

「ソレはお前達のスキル『異世界言語理解』のお陰だ」

「え? これってヒト限定じゃないの?」

「正確には意思を持って会話出来る相手だな。だから、唸り声しか出せん獣や魔物相手には無理だぞ」

「やっぱり、魔物っているんだ」

「ああ、いるぞ。さすがにここら辺はワシを怖がって来るのは皆無だ」

「そうなんだ」

明良はドリーと恒の会話からやっぱり魔物がいることに驚くが、龍がいるんだから別に驚くことでもないかと軽く納得する。

「それで?」

「ん? それでって?」

ドリーから話を促された恒はなんのことかとドリーに聞き返す。

「だから、お前達がここ。ワシの洞窟に足を踏み入れた理由だよ」

「ああ、そうだったね。じゃあ、折角だからさ。明良達も聞いてよ」

「なんでだ? 俺達が聞く必要あるか?」

「そうだよ。まあ、私は聞くけどね」

「でも、恒が話す内容は私達のことでしょ。特に聞く必要はないと思うけど?」

明良、由香、久美は恒の話を無理して聞くよりは他のことがしたいようだが、こんなところで何をするつもりなんだろうか。

「そう? じゃあ、これを見てもそんなことが言えるかな。ミモネ、出て来て」

『え~どうしよっかな~』

「ミモネが出てこないと明良達が話を聞いてくれないでしょ」

『分かったわよ。これでい「「きゃ~ナニコレ! 可愛い!」」……ちょっと、離しなさいよ!』

「由香、久美、離して! 可愛そうでしょ!」

「「は~い……」」

ミモネが明良達にも見えるようにと姿を現した瞬間に由香と久美に捕獲されてしまい、もみくちゃにされているのを恒に咎められ、由香達はミモネを解放する。

『もう、非道いことするわね。ワタル、こんな乱暴な女達との付き合いはちょっと考えた方がいいわよ』

「うん、分かった。考えとくよ」

「「そんな! 恒ぅ~」」

「あ~もう、話が進まないから、ちょっと離れて」

「「……は~い」」

由香と久美が不満そうに恒から少し離れた位置に座ると明良が恒に聞いてくる。

「なあ、恒。お前、そんなフィギュアを持ち歩いていたのか?」

『その辺の雑な作りの人形と一緒にするな!』

「え? 喋ったの? これが?」

明良の顔の近くで憤慨するミモネに明良は驚くが、ミモネの怒りは収まるはずもなく、明良の顔にミモネが拳を叩き込もうとしたところで、恒に抑えられる。

『離せよ! ワタル。僕はこいつが許せないんだ! 一発、殴らせろよ!』

「いいから、話が進まないでしょ。明良も座って。少しだけ話が長くなるから。ドリーもね」

「話が長いのは眠くなるから嫌いなんだけど」

「ワシもだ」

二人の物言いにハァ~と嘆息しつつ、それでも聞いてもらうからと恒は女神であるイスカに会った話から始める。

「そういう訳で、このミモネは俺をサポートしてくれる為に女神であるイスカが着けてくれた精霊なの。ここまではいい?」

「「よく分からん」」

明良とドリーは話は聞いてくれたが、理解するのは放棄したようだ。

「ちょっと待って! じゃあ、恒は一万と一回目の異世界転移ってことなの?」

「なら、私達もそれを体験していることになるじゃない!」

「まあ、そういうことになるね」

由香と久美はある程度は理解してくれたが、まさか自分達まで一万と一回の異世界転移を経験しているとは思わなかったようだ。

「でも、私は何も覚えていないのに恒は今までのことを覚えているっていうの?」

「ああ、さすがに全部じゃないけどな。大体はあの男に呼ばれてボーッとしたまま連れて行かれた先で鑑定され、役立たずの判定をされて奴隷として売られて、その先はず~っと鑑定の日々っていうのが一番、多いな」

「「「……」」」

「あとは、すぐに反抗して斬り殺されたり、奴隷になってから理不尽なことで殺されたり、面白半分で殺されたり、魔物から逃げるためのエサにされたり「もういいから!」……そうか」

恒が覚えている限りのこれまでの異世界転移で体験したことを話すと顔中をぐしゃぐしゃにした由香が泣きながら恒に話を止めてくれと言う。

「分かったから、恒がされてきたことは分かったから。もう話さないでいいよ」

「ああ、恒。悪かったな。あそこにあのままいたら、俺達も奴隷になって誰かにいいように使われていたんだろうな」

「でもさ、なんで恒がそんな特異点みたいな存在なの?」

「さあな。俺もそのことは詳しくは聞いていない。まあ、あっちでも原因は分かっていないが、なんとなく俺だってことが分かっているだけらしい。だから、こんなおまけを着けてくれた訳だ」

そう言って恒は自分の肩に乗るミモネを摘まんで久美の顔の前に出す。

『う~やめろよ~掴むなよ~』

「ふむ。あの国が恒達を召喚したんだな。それにしてもアイツら、まだ諦めきれんのか」

恒の話を聞いたドリーは思い当たる節があるらしく恒達を召喚した国に対し憤慨する。

「ドリーは俺達を召喚した国のこと詳しいの?」

「ああ、イヤでも詳しくなったわい!」

「どゆこと?」

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