第48話 山へ入ると、それとなく

Side:スパロ


 さあ、ドラゴン退治だ。

 ドラゴンのいる山は未踏の地。

 ナノのゴーレムがいて良かったよ。

 整備されていない森の障害物が多い事と言ったら。

 まず藪だろ、岩だろ、倒木なんかもある。


 藪を舐めてたけど、触っただけで痒くなる樹や草があるんだ。

 ナノのゴーレムが藪を綺麗にして、注意を与えてくれなかったら、大変なことになっているところだった。


 岩も侮れない。

 上に乗ったら、岩が動くなんてこともある。

 苔が生えていて滑るなんてことも。


 倒木は枝がトゲの様に残っていたりする。

 服とか引っ掛けて怪我をする可能性もある。


 聖女様とベルベルが辛そうだ。

 もちろんゴーレムが歩くのを手伝っている。


「モンスターだ」


 豹のモンスターがにじり寄ってくる。

 俺は矢をつがえると放った。

 矢は木をすり抜けてモンスターの尻尾に当たった。


「みぎゃあ」

「たぁ」


 ベルベルが杖に魔石を食わせつららの魔法を放つ。

 つららはモンスターの頭に当たった。

 仕留めたようだ。


 必中の弓も障害物がこう多いと外れることもある。

 魔法は思念で制御できるから、追尾性能は格段に良い。


 聖女様が少しで手持ちぶさたのようだ。


「ナノ、モンスターの死骸の始末をお願い」


 ゴーレムがモンスターを飲み込んで、魔石を吐き出した。

 ベルベルが大切そうに魔石を腰のポーチにしまった。


 聖女様の十字架は何であんな形にしたんだろ。

 魔道具にしても、携帯がしづらい。


 ゴーレムが聖女様に何か耳打ちした。

 十字架が宙に浮かぶ。

 聖女様はそれに腰かけた。


「ナノ、あんな便利な物があるんだったら俺とベルベルの分も出してよ」

『冒険感が薄れるだろ。却下だ。僧侶キャラが宙に浮かぶのはありだ。大物感が出る』

「もういろいろと言う気が失せた」


 聖女様が腰かけた十字架から、細い杭が発射され樹に突き刺さった。


「グガアアア」


「トレントだ」

「火球行くよ」


 ベルベルの杖から特大の火球が出て、トレントを包み込んだ。


「ガァァァァ」


 トレンとは燃え尽きた。

 あとに残った魔石をベルベルが拾う。


 俺のいる意味はあるのだろうか。

 あるんだろうな。


Side:ハイチック8000


 うん、順調だ。

 でも考えていた冒険とは違う。

 藪が最大の敵になっている気がするんだよな。

 何で毒を持った植物がこんなに多いのか。

 都会暮らしにはちょっとな。


 分析AIがあって良かったよ。

 もっともゴーレムは毒無効だけれども。

 イユンティちゃんとベルベルちゃんの柔肌が傷つくのは許せない。

 藪は消毒だ。


 おっ、魔力が染み込んだ鉱石を発見。

 サンプルとして回収しておこう。


 イユンティちゃんが持っている十字架を少し改良した。

 元々、重さを感じないように重力制御しているのだから、空を飛んでも良いよね。

 杭を射出する機能も付け加えた。


 必殺技は鎖でからめとって、至近距離からのパイルバンカー。

 中々良いんじゃないか。

 僧侶キャラじゃないのかって、細けぇこたぁ良いんだよ。


 植物のサンプルも沢山集まった。

 銀河連邦にサンプルを送ることができれば、新薬とか開発できてウハウハなんだけどね。


「精霊様、旅は楽しいですね」

「まあね。都会で暮らしていると、自然に囲まれたらウキウキする」


 ゴーレムのスピーカーで話した。


「そうです。ウキウキします」


 ウキウキついでにデータのエッチ使用を認めてくれないかな。

 それとなく言ってみようか。


「俺にありのままを見せてくれないか」

「見せているつもりですが。何か引っ掛かる事でも」

「いいや。ちょっと言ってみただけ。大したことじゃないんだ。ほら森って開放感だろ。はだかの自分を見せたくならないか」

「いやですわ。聖女は嘘をつけません。裏の自分などありませんよ」


 くっ手ごわい。


「ナノ、早く進もう。そうしないとドラゴンの巣穴に着くまでに日が暮れる」

『分かった』


 藪を刈る仕事に戻りますかね。

 おっと、この植物は美味しい実を付けて、トゲの種を動物の体に埋め込むようだ。

 寄生植物だな。

 こんなのがいるんじゃ、この山に入れないのも頷ける。


 寄生植物はナノマシンで似たような物を作れるな。

 美味しい実と甘い匂いでおびき寄せて、ナノマシンを打ち込む。


 モンスターの分布把握に役立つだろう。

 今度作ってみるか。

 調査用なら許可が下りるはずだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る