第19話


 次の選択は、ゾウ。


 かっこいい! でも、千尋の方が格好いいよ、テレテレ。という甘々雰囲気作戦。


「やっぱデカいなぁ」


 なんて言う千尋に作戦決行。


「大きくて格好いいね、でも、千尋の方が格好いいよ、てれてれ」


 どうだ? と反応を窺うと、千尋は無反応だった。


「いや、象は可愛いだろ」

「え、格好よくない? デカくて強そうだし」

「小学生男子みたいな感想だなぁ」

「だれが小学生男子だぁ」


 そう言って、恋人的空気が生まれなかったことに気づく。

 くっ、また失敗か。

 はぁ、と内心ため息をついて涼葉に話をふる。


「涼葉は可愛いと格好いいどっちだと思う?」

「ん? 私は可愛いと思うけど」

「一緒だ、あの円な瞳と鼻が長くて丸いフォルムが可愛いよな」

「うん同感。あ」


 涼葉が何かを思いついたように短い声を出し、そして、ニヤと笑った。


「ここにも、格好いいか可愛いかで意見が分かれる動物がいるんだけど、どっちだと思う?」


 挑発的な笑みを浮かべる涼葉に千尋は目を逸らした。


「格好いい、じゃない?」

「本当に? もっとよく見て?」


 千尋は涼葉と顔を合わせる。その頬は少し赤かった。


「……可愛いかも」

「からかっといて何だけど、まじまじと言われると照れる……」


 初々しい甘い空気感が流れていて焦る。

 ま、まじい。どんどん距離詰まっていく、ってか、もうこれ付き合ってるだろ……。

 い、いや! まだ諦めるな! 次だ! 次!!


 ***


「象の群れは基本メスしかいないんだ」

「へえ〜、じゃあオスはどこにいるの?」

「基本的には一人でうろうろしてる。発情期になると、メスを求めて長距離を歩くらしい」

「なんか大変だねえ」

「いや、そんな恋愛があってもいいんじゃない。苦労した方が愛情も深まるんじゃない」

「でも結局離れ離れになるんだから、愛が深い分辛いんじゃないの?」

「さあ、どうだろ」


 なんて話をしながら、辿り着いたのは猿山。


 あちこちで猿たちが戯れているのを見ながら、私は息を止める。


 苦しくなって限界がきたところで、口を開けて呼吸。そして千尋に話しかける。


「はあ、ひー、ひー、し、知ってる、千尋? サルは恋愛の季節になると顔があかくなる、ひー、だ、よ?」

「それ言いたいがために、息止めて顔を赤くしたの? 危ないからやめな〜」

「え、あ、うん……」

「あとそんな感じでこられたら、猿でも引いちゃうと思う」

「で、ですよね……」


 また失敗。いや、流石にこれは無理か。


「涼葉、猿の雑学もある?」

「橋下、私をガイドか何かと勘違いしてない?」

「してる」

「してるのかい。まあ、あるけど」


 涼葉はそう言って、話し始める。


「猿って、若いメスはモテないらしいよ」

「へえ」

「こどもをちゃんと育ててくれる、っていう信頼感から、子育て経験のあるメスがモテるらしい」

「現金だなぁ」

「現金な恋愛でもいいと思う。私はそれでも幸せだよ?」

「どうして俺に言うんですか」

「さあ? どうしてだろうね? 私、モデルの仕事もできるし、子育ても多分上手だよ?」


 子作りも上手そう! とか言おうとした私は終わっているのだろう。ひどく涼葉が眩しく見える……。


「じゃあオスはどんなオスがモテるの?」

「遺伝的多様性から、目新しさのあるオスがいいみたい。私にとっての橋下みたいな?」

「降参」

「あはは!」


 なんてやりとりを傍目に、涙目になりそうになっていた。


 お二人、イチャイチャしすぎです……。


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