第24話 名前のチカラ
『ラクター様』
ふと、アルマディアが声をかけてくる。
――あの派手な破壊をやらかした後、気を取り直して探索を再開してしばらく経った頃だ。
『先ほどの魔法、名前を付けてはいかがでしょう』
「名前だって?」
俺は頬をひくつかせた。
改めて考えるまでもなく、オリジナル魔法に名前を付けるなんて学生の所業だ。首筋がムズムズする。
いや、まあ。その、ね?
嫌いじゃないですけどね?
『ラクター様の魔法も、楽園創造と同じようにイメージが重要な要素。名前を付けることで、対象の魔法をよりイメージしやすく、より発動しやすくできると考えます』
「……」
確かに、あの風の鉄槌みたいな魔法をいちいち思い浮かべるのは混乱の元かもしれない。
今でこそ女神のサポートや、超強い神獣少女の護衛があるから、こうしてのほほんと旅ができているが……本来、地図もない場所の探索は命がけだ。
一瞬の判断ミス、遅れが致命的な結果に繋がりかねない。
良い意味で『労力を省く』のは大事なことだ。
『そこで私、魔法の名称を考えてみました』
途端に嫌な予感がした。
「なん、だと。アルマディア……お前が、か?」
『はい。グロース・メイスエアという名はいかがでしょう』
「……」
悪くねぇなと思ってしまった。
『今後、ラクター様は様々な魔法を習得していくでしょう。その中には、私がお伝えした魔法とはまったく系統の異なるものもあるはず。ですから、そうした魔法と区別が付くよう、私がお伝えした魔法は『グロース系』と呼称することにしました』
「……」
いや悪くねえぞと思ってしまった。
これ、ゆくゆくは○○系魔法とか分類するってことだよな。オリジナルで。ふ、ふーん。ほおーう。
アルマディアが『いかがです?』と重ねて聞いてきたので、「お、おう。わかった」と答える。
「……? 主様、具合悪い? 口元押さえて、ひくひくしてる。だいじょーぶ?」
「大丈夫だ。そっとしておいてくれ」
「……??」
心配そうなリーニャの頭を撫でながら、俺は猛烈な羞恥心に耐えた。
――深呼吸をひとつ。
「ところでアルマディア。大神木は近づいてきているか?」
話題を逸らす。
アルマディアは何事もなかったかのように応じた。
『そうですね。かなり神力を強く感じるようになってきました。もうすぐ、大神木の本体が視界に捉えられると思います』
「確か、外からじゃ大神木が見えないんだったよな」
『それだけ強力な結界なのでしょう。ですが我々であれば、結界内への侵入は問題ないはずです』
ま、女神に神獣だもんな。親戚が家に遊びに行くようなもんだ。
汗を拭い、もう一度休憩を取る。
静かな森だ。
動物たちの気配は感じない。
イリス姫が心配していたように、カリファの聖森林全体で異変が起こっているのだろう。
大神木へたどり着けば、その原因もわかるかもしれない。
視界の端に、GPを表示させる。
先ほどの魔法暴発で、結構な量のGPが吹き飛んだ。メーターの空白が少し目立つ。レベルアップしてもGPが完全回復するわけじゃなさそうだ。さすがにゲームほど都合良くはいかないか。
……あれ? よく見ると少しずつGPの残量が増えてってる。
「アルマディア」
『大神木が近づいている影響でしょう。周囲に漂う神力が、ラクター様のGP回復を促進しているのです』
「なるほど」
『ですが、回復は微々たるものです。過信はなさらないよう。安全な場所にたどり着くまで、GPを大きく消費する行動は慎重になさってください』
「わかった」
GPを表示させたまま、ごろんと横になる。すかさずリーニャが抱きついてくる。尻尾がぽふぽふと地面を叩いていた。
GP。神力。大神木。
少し落ち着いたら、また魔法のことを思い出してしまう。
――勇者パーティにパワハラされていた頃は、まさか自分が魔法を使えるようになるなんて想像もしていなかった。
転生前も、たまーに考えてたっけ。魔法が使えたらって。
「ふっ……グロース・メイスエア、か」
メゴォアアアッ!!
『……GPを大きく消費する行動は慎重になさってください、と申し上げたばかりですのに』
「マジすまん」
俺は顔を覆いながら謝った。
名前を付けるって偉大だな。すげえ鮮明にイメージできたよ。
数メートル先に着弾した魔法の跡を、俺はとても見ることができなかった。
――ふいに。
俺に抱きついていたリーニャが立ち上がり、軽やかに走る。グロース・メイスエア着弾跡をのぞき込む。
さっきまで機嫌良さそうに揺れていた尻尾が、今は動きを止めている。獣耳が忙しなく辺りをうかがっていた。
ただごとではない。
「主様。こっち」
「どうした」
すぐに気持ちを切り替え、リーニャの元に向かう。
彼女の隣に並んだ俺は、息を呑んだ。
グロース・メイスエアによって、地面に穴が空いていた。
どうやら洞窟がこの下に広がっていたらしい。
差し込む陽光が、洞窟の一部を照らし出す。
そこに広がっていたのは、おびただしい数の動物たちの骨だった。
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