第3話 【楽園創造者】
「俺の頭の中から、声が……」
『はい、私です。これからどうぞよろしくお願いします。ラクター様』
女神アルマディア。本当に俺の中にいるんだな……。
さっきは慌てていて気付かなかったけど、改めて聞くと透明感のある優しい声だ。聞くだけで心が癒される。あとちょっとゾワゾワする。
これはアレだな。いわゆる
『ラクター様?』
「いや何でもない。それより女神様」
『私はもはやあなたのものであり、あなたと同一。どうかアルマディアとお呼びください』
「わかった。じゃあアルマディア。さっき言ってた【楽園創造者】だけど、本当に自分の望む楽園を創れるのか? 自由に?」
『それでは、実際にお見せしましょう』
失礼します、とアルマディアが言う。
すると俺の右手が勝手に動き出した。壊れた馬車に向けて手を掲げる。
胸の中心から、何か温かく心地良い流れが生まれるのを感じた。
『
「なんとなくは。これが神力か。魔力とは違うのか?」
この世界には魔力があるのは知ってる。その魔力を使った奇跡が、シンプルに魔法と呼ばれている。まあ、よくあるRPG的なアレだ。初めて目にしたときはさすがに驚いたけど……。
『似ていますが、質が違います。神力を使いこなせるようになれば、いずれラクター様も大魔法使いになることができるでしょう』
「マジか。最強じゃないか。ちょっと怖ぇなそれ」
『はい。ですが、今はまだ知識と経験が足りません。それに――ラクター様ならば、神力であろうと『怖ぇ』使い方はされないでしょう』
くすり、とアルマディアが笑った。
内心というか、信念を見透かされているようで気恥ずかしい。
意外とこの女神、茶目っ気があるのかもしれない。
『ラクター様。準備が整いました。今から楽園を創造します。この感覚を、よく覚えていてください』
そう言うと、アルマディアは俺の身体を通して、神力を解放した。
光の輝きが、壊れた馬車を中心に同心円状に広がっていく。馬車をすっぽり包んだ光の円は、だいたい半径三メートルほどの大きさになって止まった。
するとどうだ。
壊れていた馬車がみるみるうちに再生され、さらに姿を変えていく。
無骨な鉄の檻だったものが、まるで舞踏会に赴く時のような白く美しい装飾を持った荷台に。
さらには、荒れた土からは色とりどりの花が咲き乱れる。
ものの十秒と経たないうちに、凄惨な襲撃現場跡は、絵本の一ページのような幻想的な光景に変わった。
「すげぇ……」
『これが【楽園創造者】の力です。今回はわかりやすさに重点を置きましたが、どのような空間を創るかはラクター様の自由となります』
身体の自由が戻った俺は、綺麗に咲いた花のひとつを触った。本物である。
神力の使い方も難しくなかったし、これならいくらでも好きな空間を創り放題じゃないか。
もしかしたら、あんなことやこんなことも――。
良からぬ想像をしかけた俺は、ふと我に返った。
酒池肉林で左うちわ。それってスカルと同じだよな。
あいつのようにだけは、なりたくない。
『ラクター様。いくつか注意いただく点があります』
アルマディアは言った。
『【楽園創造者】の力には制約があります。ひとつは、効果範囲。今のラクター様では限られた範囲の中でしか楽園を創造できません。ふたつめは、ラクター様の限界値。【楽園創造者】の力を使いすぎると、神力を著しく消耗し、行動不能になります』
「なるほど」
『楽園創造はラクター様のイメージが鍵です。より多くの知識を身につけ、多くの経験をすることによって、楽園はより豊かに、より自由になるでしょう』
「わかった。やってみるよ」
『私も全力でサポートいたします。女神アルマディアはあなたと共に』
心強い言葉だ。
しかし、人生何が起こるかわからないな。昨日まで勇者たちのパワハラに悩まされていたと思ったら、勇者すら持っていない力が手に入るとは。あっという間の大逆転だ。
ただ――ひとつわからないことが。
「なあアルマディア。あんたはこれほどの力を持っているのに、どうして奴隷になんかなってたんだ。勇者パーティに貶められたって言ってたが」
『実は――』
アルマディアは沈んだ口調で話し始めた。
彼女は元々、庇護する眷属の様子を見るために地上に降りてきたのだという。
そこで勇者パーティと遭遇。スカルが半ば強引に味方に引き入れた。
その後、神力に目を付けられ、勇者パーティの賢者――アリアのことだ――に監禁されてさんざん力を吸い取られた挙げ句、奴隷として売られた。
生々しい話から推測するに、奴隷にされたのは力を奪われて弱っていたためと、見目麗しかった女神に勇者スカルが入れ込まないようにするためだろう。アリアの奴……。
「その眷属ってのは、大丈夫なのか?」
『……』
初めて、アルマディアが言い淀んだ。
俺と一体化した以上、自由に動くことはできないと考えているのかもしれない。
だったら。
「わかった。じゃあ今からその眷属に会いに行こう」
『ラクター様……よろしいのですか?』
「助けると言ったからな。あんたを助けるのも、眷属を助けるのも一緒だ」
俺は微笑んだ。
「アルマディアは、一生懸命に務めを果たそうとしたんだ。だったら、俺は力を貸すよ」
『……! ありがとうございます、ラクター様!』
もし今、アルマディアの身体があったなら、彼女は涙ぐんでいるかもしれない。声が震えていた。
ようやく、自分の信念に従うことができそうだ。
「おいガキ! そこで何してやがる!」
野太い声が聞こえてきたのは、そのときだった。
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