第4話 跡を濁さず
フェリクス様から婚約を破棄されて家に戻ってきた私は、すぐにアイデアノートを処分した。次に使おうと考えていた新しい演出や提供する料理の候補、インテリアの配置案や依頼しようと予定していた楽団の候補など書き留めた私の大切なノート。
そのノートを処分するのは少し辛かったが、もう必要なくなったから。しっかりと燃やして、跡形もなくなった瞬間を見届けた。これでもう、誰にも盗み見ることなど出来なくなった。
それから、今までパーティーを開く時に色々とサポートしてくれた人達にも会いに行った。色々と助けてくれた人達には、ちゃんと話しておくべきだと思ったから。
会場の大掛かりな飾り付けやインテリアの配置などを指示してくれていた職人達、参加者に送る招待状のデザインや手配などを請け負ってくれたスタッフ達、そして色々と相談に乗ってアドバイスしてくれた貴族の方々。他にも色々な多くの人達に、私は会いに行った。お世話になった人達に、挨拶と報告をするために。
フェリクス様との婚約が破棄されたので、今後は私がパーティーを開くこともなくなるだろう。それから、私が妹のアイデアを盗んで自分の手柄にしていたという話を聞くようになるかもしれない。だが、それは嘘だということ。真実を彼らに話した。
話を聞いてくれた人達は、私のことを信じてくれた。一緒に仕事をしていたから、誰かのアイデアを盗んで自分の手柄にするなんて信じられない。むしろ、アイデアを盗まれたと言い出した人物のほうが怪しい。
話を聞いて、私の代わりに怒りを露わにする人も居た。私のために怒ってくれる人が居たことが嬉しくて、また泣いてしまった。
そして私は彼らに、こんなお願いをした。
もしかしたら、フェリクス様か妹のペトラがパーティーの準備をするために手伝いを依頼してくるかもしれない。その時は、それぞれの判断で請け負うのか断るのかを決めてほしいと。
本当は断ってほしい。だけど、彼らにも生活がある。仕事の依頼を断ってしまったら、彼らの収入が減ることになる。だから私は、断ってほしいとは言えなかった。
だけど彼らは、断ると約束してくれた。
「そんな酷い話は聞いたことがないッ! そんな奴らの依頼など断るに決まってる。何かあったら必ず俺達に言ってくれよ? 絶対に君の力になるからさ!」
そう言って、私のことを心配してくれる人達が居てくれた。その言葉だけで十分。それだけで私は救われる。まだ頑張れる気がした。
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