盗んだだけでは、どうにもならない~婚約破棄された私は、新天地で幸せになる~

キョウキョウ

第1話 突然で一方的に

「ベリンダ、君との婚約を破棄する」

「えっ……?」


 目の前に座っている彼からそう言われた時、私は何を言われたのか理解することが出来なかった。しばらくして、ようやく目の前にいる婚約者が言ったことを考える。婚約を破棄する。なんで。分からない。


 婚約者の公爵子息であるフェリクス様に呼び出された私は、彼が待っている屋敷にやって来た。


 彼から話したいことがあると言われた。珍しいなと思いながら、屋敷を訪れた私。どんな用事だろうかと首を傾げていた。


 考えてみた結果、思い当たることがあった。もしかすると、近いうちに開く予定のパーティーについて、何か聞きたいことがあるのかもしれない。


 今までフェリクス様は、パーティーに関しては何の興味も示してこなかった。彼が主催するパーティーのセッテイングについては全て、婚約者である私が主に担当してきた。


 貴族にとってパーティーとは、非常に大事な交流の場だった。その場を用意して、参加してくれた皆様を楽しませるのが主催者の責任である。


 その責任を私に全て放り投げて、自分では何もしないフェリクス様。そんな彼が、少し前からパーティーに興味を持つようになっていた。


 フェリクス様がパーティーに関して色々と聞いてきたので、私は真剣に彼の質問に答えた。ようやくパーティーの大事さに気付いてくれて、興味を持ってくれたんだと思った私は、とても嬉しかった。


 だから今回も、その話をするのかと思って彼に会いに来てみたのに……。まさか、婚約破棄を言い渡してくるとは思わなかった。


「ど、どうしてですか? 理由を教えてください!」

「お前は、優秀な妹のペトラと比べて無能すぎるからだ」

「私がペトラと比べて、無能……?」


 そんな事を言われて、私は思わず眉を寄せてしまう。どうして急に、妹のペトラの名前を出して来たのだろうか。彼女と比べて私が無能とは、どういうことなのか。


 それで婚約を破棄するなんて、まったく意味が分からない。


 妹と比べて私が無能? 何を比較して言っているだろうか、この人は。そんな事を考えて、もっと詳しく聞き出そうと思った、その時。


「あら。まだ、お話の途中でしたの?」


 そう言って現れたのは、私の妹であるペトラだった。


「いや、大丈夫だよ。部屋に入ってきてくれ、ペトラ。君も一緒に話そう」

「わかりましたわ、フェリクス様」


 二人は親しげに会話をして、お互いに笑顔を向けていた。先程までは不機嫌そうな表情だったフェリクス様。


 私の前では出さないような笑顔を、ペトラにだけ向けている。


 妹のペトラが、私の婚約者である人の屋敷に居る。しかも、とても仲が良さそう。それを隠そうともしない。見せつけられた私は、二人の関係を察してしまった。


「……ペトラ?」

「あら、お姉さま。元気? あまり、元気そうじゃないわね?」

「どうして……」


 彼女は、私に向かってにっこりと微笑んだ。それから、フェリクス様の隣に座ると見せつけるように、彼の体にもたれかかった。フェリクス様は拒否しない。むしろ、彼女の肩に手を置いて引き寄せた。やっぱり、そうなのか。


「お姉さま。どうしたの? また顔色が悪くなったけれど」

「……」


 彼女は分かって、言っている。また、私から奪い取ったのね。その成果を、存分に見せつけようとしてくる。


 まさか妹が、私から婚約相手まで奪うなんて思ってもいなかった。




***




 妹のペトラは昔から、人の物を欲しがった。特に、私の大切なものを欲しがる傾向があった。可愛い容姿で甘え上手な彼女は、周りの人達から愛されていた。


「ねえ、かえして! それは、わたしのだよ!」

「うぇぇぇん。ちょうだいよぉ」

「だめなの。これは、わたしのものだもん!」

「かえして!」

「やだぁー!!」


 幼い時の記憶。今でも覚えているのは、泣き叫ぶ妹の姿。ペトラは私の持っていた人形を羨ましがって、何度も欲しいと言ってきた。私から奪い取り、絶対に返そうとしない。いつも、こうなる。


「ベリンダはお姉さんなんだから、我慢しなさい」

「それぐらい、あげればいいじゃないか。ペトラは、まだ小さいんだから」

「でも……」

「やぁぁぁ!! これは、わたしのぉぉぉ!!」


 両親は私に、我慢を強いる。そして、妹のペトラに譲れと強要してきた。そんなの私は嫌だった。ペトラは泣いて暴れ続けた。結局最後は、私が折れる事になる。


 今までに、いくつも奪われてきた。その度に、私は泣くしかなかった。


 大切なオモチャ、大切なアクセサリー、お気に入りの服、自分の部屋、世話をしてくれる侍女、そして両親からの愛情。私は、色々な物を奪われ続けてきた。


 それは、今も変わらない。


「ねえ、ペトラ。お願いだから、私の物を返してくれない?」

「……どうしてですの? これは、私の物ですよ」


 そう言って、私の大切な物を奪っていく。自分の欲望のままに行動する彼女に振り回され続けた私は、疲れ切っていた。彼女とは関わらないように、家の中でも避けて生活してきた。


 だけど今日、久しぶりに会ったと思ったら相変わらずの彼女だった。今度は、私の婚約者まで奪い取ろうとするなんて。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る