第39話 従魔の竜
「タイクーンドラゴン?」
祭り当日の朝、王都は港町方面から襲来したドラゴンによって攻撃を受けている。ドラゴンは王都の城を中心に、街に戦火を広げていった。僕は教会に向かい、子供たちや聖女のフレイヤと、みんなの良き保護者であるママを牧場に誘導しようとやって来たんだ。
そして聖女のフレイヤからあることを告げられた。
ママの正体はかつて王都を壊滅においやった魔獣の長であるタイクーンドラゴンだと。
聞いても、半信半疑だった。
当人のママは僕との口づけによって黄金色の巨大な卵の中で、胎動している。
僕と一緒にママの様子を見ていたフレイヤは、とつとつと昔を語った。
「ウィル、彼女はその昔、魔獣を引き連れて王都を壊滅まで追い込みました。その時、王都にいた大勢の勇者たちがお亡くなりになられたのです。貴方が良くしているヴァージニアのご両親、エンジュのご両親、それからビャッコのご両親も、当時の混乱のなかお亡くなりになった勇者たちです。私も勇者の代表としてママと戦った一人なのです」
「……つまり、ママの正体は本当にタイクーンドラゴンであり、今王都を襲っているドラゴンを倒してくれると? それによる反動はないのでしょうか、例えば周囲にいる魔獣がとつぜん暴れだすような事態にはならないのでしょうか」
「貴方はママをどう思っていますか? 優しくて、気立てがよくて、子供たちの面倒をよく見ている、とても出来た娘だと思いませんか?」
「そりゃまぁ、普段のママはそうでしょうけど」
「ならば臆することは何もありません、ママの封印を解き放ってやってくださいウィル」
フレイヤはそう言うと黄金色の巨大な卵に手を向ける。
彼女たちの話は未だ半信半疑だ、だけど。
もしも本当だった場合、僕の責任は重大だ。
しかし、今はママの力を頼るしかないとなれば。
僕は黄金色の卵に近づき、手を添えた。
ママの心臓の音がここまで聞こえてきそうだ。
律動的に鳴る心臓音は、卵が二つに割れると同時に収まり。
そして卵から凄い勢いでドラゴンが天井を突き破り、現れる。
僕はフレイヤに連れられて教会から脱出し、再び空を見上げた。
そこには黄金色の肌を持った超巨大なドラゴンがいて。
ドラゴンと化したママは前方にいた王都を襲っているあいつに飛びだっていった。
「ウィル!! 今のドラゴンはなんだ!?」
「ファング戻ってたのか」
「俺の背中に乗れ、あいつを追うぞ」
ファングの背中に飛び乗ると、ファングは街の上を跳躍してママを追った。
ママの存在に気付いた敵のドラゴンは、ママの姿を見るなり猛進する。
ママは被害を抑えるため上空に上り、ドラゴンを王都から引き離した。
「ドラゴンの縄張り争いなのか!?」
ファングは空中戦を始めたドラゴンたちを見てそう言っていた。
「いや違う、だってあれは」
あの片方のドラゴンは、ママだから。
ママは相手のドラゴンに後ろをとられ、火のブレスをかわし続けている。
きっと今まで長いこと人間として暮らしていたから、勘が戻せてないのだろう。
僕たちが壮絶なドラゴンの死闘を見ていたように、王都の人間もまたその光景を見ていた。
「なんでタイクーンドラゴンが二匹もいるんだ!?」
「さ、さぁ、でも片方は王都を守っているようにも見えないか?」
「どうすればいいの、王都はまた滅茶苦茶になっちゃうの?」
眼下にいた街の人がドラゴンの死闘に困惑している。
そこに騎士の出で立ちをしたジニーがやって来た。
「ご心配なさらず、あのドラゴンは必ずや我々騎士団がほふってみせます。ですから皆様は安全な場所への非難をお願い致します」
ジニー、成長したね。
今の君を誰も落ちこぼれなんて言わないよ。
その時、僕の隣にすっとビャッコが降りて来た。
「ウィル、悪いんだけど金貨1000枚ほどくれない?」
「無理だよ、金貨1000枚をこの状況で用意できないよ」
「チ、なら誰があのドラゴンを倒すの?」
「それは、あの黄金色に光るドラゴン――僕の従魔が倒してくれる」
そう言うと下にいたファングも、横にいたビャッコも口をそろえて驚いていた。
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